2015年度「アントレプレヌール支援:邦楽科におけるグローバル・キャリア 展開」実施報告書

目次 1.はじめに 2.事業実施  2.1. 参加メンバー  2.2. ポートフォリオ作成支援  2.3. 渡航期間および行程  2.4. 現地での交流概要  2.5. ワークショップ  2.6. 教育プログラムとしての効果 3.モスクワ音楽院主催音楽祭「日本の心」とは 4.演奏会の模様 5.渡航後のアンケート 6.今後にむけて

1.はじめに

今秋9月末、昨年度にひきつづき、ASAP採択事業「アントレプレヌール支援:邦楽科におけるグローバル・キャリア展開」を実施いたしました。 「アントレプレヌール支援」とは、音楽起業家(アントレプレヌール)としての意識とスキルの習得を支援するものです。実際には、卒業・修了後にアーティストとしてのキャリア形成をスムーズに行えるよう、在学中から自主的な活動を促します。これはキャリア支援の一翼を担う研究教育領域として、欧米で先進的取組を行っている音楽系大学ではすでに定着しつつあり、音楽創造・研究センターでは昨年度にひきつづき、この支援に取り組んでおります。 本事業はその試行的取組であり、将来、グローバルな舞台でのキャリア展開をめざす邦楽専攻の大学院生・修了者が即戦力を身につけていくための契機づくりとして実施されました。具体的には、モスクワ音楽院で毎年開催されている国際音楽祭「日本の心」に、自主企画で出演するまでの一連の流れを支援するプロジェクトとなります。 本事業では下図のとおり2年で終了する工程を設定しております。参加者はまず1年目に予備調査として視察を行い、その後、ポートフォリオ・サイト(個人Webページ)などの広報を含めた十全な準備を経て、2年目に公演を実施します。 1 2015年度の派遣では、昨年度、予備調査を行った3名が音楽祭で自主企画公演を実施しました。若手アーティストたちの力量が存分に発揮され、モスクワ音楽院主催者、関係者の方々をはじめ、モスクワの聴衆の皆様に大変喜んでいただきました。 目次へ戻る

2.事業実施

2.1. 参加メンバー

 6~7月の募集・選抜を経て、新規の予備調査グループ参加者4名が決定しました。ここに出演グループ3名が加わり、今年度の事業では下記2グループ、計7名が参加しました(敬称略)。

①予備調査グループ(学生3名、修了者1名) ②出演グループ(学生2名、修了者1名)
 江原 優美香:修士1年、箏曲生田流  佐々木 愛沙:修士1年、日本舞踊  井本 早紀 :修士2年、都山流尺八  田井 藍古 :修了者、長唄三味線  正田 温子:修士2年、邦楽囃子(笛)  福田 恭子:博士3年、箏曲生田流  瓦田 周 :修了者、箏曲山田流

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2.2. ポートフォリオ作成支援

 参加者は訪露前にいずれも自分のポートフォリオ・サイト(個人ウェブサイト)を準備した上で、訪露しました。ポートフォリオとは、音楽家の個性や専門性をアピールする目的のもと、自身の活動歴をまとめ、魅力的に発信していくプロモーション・ツールです。昨今ではその内容をウェブで発信していくプロモーション・サイトが、キャリア展開のための必須条件として知られています。  音楽創造・研究センターではアントレプレヌール支援の一環として、2015年度にポートフォリオ支援を行い、ワークショップの開催とマニュアルの作成・公開を行いました。今年度出演した3名はいずれも一連のワークショップに参加し、半年をかけて少しずつ下記のような充実したポートフォリオ・サイトを作成し、その上で渡航に臨みました。帰国後も、皆さん積極的に活動状況を配信していらっしゃいます。 ❖福田恭子さん(博士課程3年)正田温子さん(修士2年)瓦田周さん(大学院修了者)  実際に、モスクワの邦楽関係者の方々からも、これらのウェブページで音源を見聴きし、奏者への興味を持ってくださったとの感想をお聞きしました。若手アーティストは認知度がどうしても低いため、知っていただくための工夫が必要です。世界中のどこからでも自分を知ってもらえるツールが、ポートフォリオ・サイトなのです。グローバル・キャリア展開を望む若手アーティスにとっては、まず取り組まなくてはならない準備といえます。 目次へ戻る

2.3. 渡航期間および行程

 渡航期間は2015年9月23日(水)~28日(月)の4泊6日(機内一泊)で、行程は下記のとおりとなりました。

26日(土)ワークショップ [アントレプレヌール支援] 着付など準備 リハーサル 公演本番

23日(水) 渡航
24日(木) 現地集合 ワークショップ [アントレプレヌール支援] 現地邦楽レッスンの参観:箏、三味線 ロシア人講師との意見交換会 練習(出演グループ) 招待演奏会(Fabio Mastrangelo指揮、”Vivaldiの夕べ”)の参観
25日(金) ワークショップ [アントレプレヌール支援] 練習(ロシア人講師の参観あり) ロシア人講師との昼食会 ロシア人講師との意見交換会 モスクワ音楽院「民俗音楽研究センター」視察、研究員による民謡歌唱の参観 予備調査グループ・メンバーの試演会
27日(日) ワークショップ [アントレプレヌール支援] ロシア人講師との演奏交流会 現地解散 渡航
28日(月) 帰国

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2.4. 現地での交流概要

 現地では、モスクワ音楽院関係者の先生方から様々な便宜を図っていただき、主に下記4件のイベントが実施されました。  ① 音楽祭「日本の心」における自主企画公演(9月26日)  ② 現地邦楽関係者との交流:話し合い、レッスンの参観、演奏交流(9月24~27日)  ③「民俗音楽研究センター」訪問:同センター研究員の方々による伝統的な歌唱法による民謡披露(9月25日)  ④ 招待演奏会の観覧(9月24日) 目次へ戻る

2.5. ワークショップ

 現地では空いた時間帯に、アントレプレヌール支援のためのワークショップを6回開催しました。これは音楽起業家(アントレプレヌール)として自覚し、今後のキャリア展開をイメージすることで、現地で目的をもって自覚的に行動するための意識化トレーニングです。  下記は、参加者同士で意見を出し合ったトピックの一例です。

Q.1 20年後のアーティスト像について、あなたの夢をお話ください。また、その夢はどのように外国とかかわりますか? Q.2 資料「あなたの起業家度チェックシート」を確認し、自分の長所と短所を話しましょう。 Q.3 現場の調査では何を調べることが大切だと思いますか? Q.4 「外国の」現場とつながるために、大切なこと・ものとは何だと思いますか? Q.5 自己マネージメント(管理能力)において普段、工夫していることは何ですか?

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2.6. 教育プログラムとしての効果

 以上のような一連の行程を経て、本事業で期待される教育プログラムとしての効果は下記の4項目となります。 4 目次へ戻る

3.モスクワ音楽院主催音楽祭「日本の心」とは

 モスクワ音楽院世界音楽文化センターでは、ソ連崩壊後まもなくの1993年、一般人に向けた邦楽のマスター・クラスをスタートしました。その6年後にあたる1999年に、国際音楽祭「日本の心」が始まりました。同センターではこれまで複数の国際音楽祭を企画してきましたが、そのなかで「日本の心」はもっとも古い歴史を誇ります。これは同センター長のマルガリータ・カラトゥイギナ先生が箏の師範の免状をお持ちになり、邦楽アンサンブル「和音」の主要メンバーとして活動していらっしゃるなど、日本音楽への造詣が非常に深く、中心となってご尽力されてきたことに由来しています。  「日本の心」は毎年9月から12月にかけて開催されます。日本音楽および日本の伝統文化の紹介や、日露の文化交流を目的として、雅楽、日本舞踊、長唄三味線、三曲、若手邦人作曲家の作品など多岐にわたる日本音楽が紹介されてきました。同センターのウェブページには、2010年(第12回)以降の同音楽祭の模様(音楽創造・研究センターによる邦訳一覧はこちら)が紹介されています。 目次へ戻る

4.演奏会の模様

 9月26日に、本学大学院生の正田温子さん(修士2年、笛)、福田恭子さん(博士3年、箏曲生田流)、2013年度大学院修了者の瓦田周さん(箏曲山田流)の3名による演奏会『和楽器の響き:いにしえの音を名曲に乗せて』が行われました。会場は文字通り熱気に包まれ、その食い入るような聴き方や、終演後の熱狂的な歓声に驚かされました。 img1 リハーサル風景 演奏会「和楽器の響き:いにしえの音を名曲に乗せて」 プログラム 目次へ戻る

5.渡航後のアンケート

 帰国後、参加者7名にアンケートを取りました。その概要はこちらをご覧ください。 目次へ戻る

6.今後にむけて

 今回の公演では、モスクワ音楽院関係者の先生方に様々なかたちで厚遇していただきました。ここであらためて深謝申し上げます。今回の公演は、若手アーティストであっても国際交流・邦楽受容に寄与できることを証明した機会となりました。今後も、現地の方々に喜んでいただき、本学の若手アーティストにとってもグローバル・キャリア展開の契機として得難い経験をさせていただける、創造的な相互関係が築かれていきますことを願います。またアントレプレヌール支援のケース・スタディとしてフィードバックし、今後の支援に生かしていきたいと思います。 目次へ戻る