「音楽家のための確定申告講座」(第8回特別講座「若手音楽家のためのキャリア展開支援」)
【おたよりコーナー③】
ここで【おたよりコーナー】です。
一昨日お父さんが帰ってくるなり、「お前いま一体いくら稼いでいるんだ!」と聞かれました。少し怒っている言い方だったので、私もかちんときて、そんなの関係ないじゃん!と言って部屋に入ってしまいました。
あとでお母さんから聞いたところによると、どうやらお父さんは会社から私の収入についてのことで呼び出されたらしいんです。
明後日出張からお父さんが帰ってきたら詳しく聞いてみようと思いますが、その前に栗原さんからアドバイスがもらえたらと思って聞きました。
ちなみに私の去年の音楽教室の収入は約83万円。経費を20万くらい引いてちゃんと確定申告もしています。103万円までなら親の扶養家族に入れると聞いているので大丈夫だと思うんです。
栗原さん、我が家に一体何が起きているんでしょうか。
お父さんが帰ってくる前にいつものわかりやすい説明をお願いします!
これは親との関係、扶養家族の話ですね。
3. “親との関係”の話
リアルにこの”親との関係の話“は本当に多いので、皆さんもしかしたら今日帰った後即報告する人がいるかもしれませんね。ここで整理しておきましょう。
① ”扶養家族”のトラブルがあとを絶ちません
② “どこで”“どうして”発覚するのか?
③ しくみの理解と、対処方法
です。
今日みなさんに特に知っておいてほしいのは③の対処方法です。今日帰ったらすぐやる人もいる人がいるかもしれませんね。
① ”扶養家族とは?”(103万円の誤解)というところからいきましょう。
「誰かの扶養家族として、103万円までは大丈夫ですよ」という誤解がとても多いよということです。
皆さん聞いたことがあるかもしれませんが、まずこの103万円までの誤解というのが何なのかということを見ていこうと思います。
事業所得というのは売上(収入・ギャラ)があって、そこから経費とかを引いて事業所得(もうけ)ということを、さっきなんとなく見ましたよね。
一方、給与所得の方には、経費を引くという考え方がありません。そうなると、収入イコール所得なんですか?少なくならないんですか?なんかしら引いてくださいよ?という人がいたんでしょうね。そこで、給与所得控除というのがあるんです。
控除というのは、「なんか引けるやつ」と思っておいてください。
給与収入に対しての控除は「年収何万円の人は一律同じ額控除」ということが決められているんです。
先ほどの103万円というのがどうなるかというと、この表を見ると、控除額が65万円と書いてあるので、103万円から65万円を引くと38万円になるんです。
給与額が103万円、一覧表を見て控除額65万円を引いて38万円。これが給与所得になります。
実は誰かの扶養に入れる条件というのは、“所得が38万円以下の人”と決まってるんです。
給与所得については、この38万円から逆算して、65万円引く前の元の給与収入が103万円以下の人ならだれかの扶養に入ってもいいよということなんです。で、その103万円の方がわかりやすいし覚えやすいので、そっちの数字が一人歩きして103万円の部分ばかりが目立ってるって感じですね。
ですから、103万円までは・・・、というのは、給与所得の人に限る話なんです。
ポイントは、事業所得だろうが、給与所得だろうが、その合計所得だろうが、“所得が38万円以下“ってことなんです。
事業所得だけの人でいくと、もうけが38万円以下の人が、誰かの扶養に入れるということです。
ちなみに令和元年までの確定申告はこれでいいのですが、実は令和2年から、ここの部分が変わってしまいます。基礎控除38万円とか、給与所得控除とかが変わっちゃうんです。今日はお話ししませんが、ここが変わるということは、なんとなく知っておいてください。
さて、先ほど【おたよりコーナー③】の日本一の音楽教室を作るんだ さんの質問のなかで、「ちなみに私の去年の音楽教室の収入は83万円。経費を20万円くらい引いてちゃんと確定申告もしています。」というのがありました。
この事業所得はいくらになるでしょうか。83万円-20万円は63万円になりますね。
なるほど、だから税務署の人が「あれ?」と思ったわけですね。ですので先ほどのお父さんは、きっと会社の経理部の人に呼ばれてしまったんでしょうね。
これを文字で確認しておくと、この間違いというのは、①の市区町村の住民税計算というところで発覚します。
という流れなんですが、もう少しわかりやすいように、こんな表にまとめました。
まず、お父さんがサラリーマンらしいので、お父さんは会社で年末調整というのをします。お給料をもらっている人の簡易的な確定申告みたいなものと思ってください。
そうすると、「この社員さんの給与関係の数字はこんなでした」と、次の年度の住民税を計算するために、会社はまとめて市区町村役場、今回は市役所としましょう、社員さんが住んでいる市役所に報告をするんです。一方、あなたは音楽家として確定申告をしますよね。あなたの住んでいる管轄の税務署に提出して、税務署はそれを市役所に報告してくれているんです。
このデータがそろうと、市役所では、報告された数字を基に、住民税の計算を始めるんですが、同時に扶養の計算などが間違っていないかなどのチェックも行います。
そうなると、さっきのおたよりの場合、お父さんの方の年末調整では、子供を扶養家族に入れて計算をしていますが、子供が提出した確定申告の方だと、所得が38万円を超えていて、扶養に入れない数字でしたよね。
こういう場合、市役所では、「あれっ、どちらかが間違っているはずだぞ」と思うわけです。
で、制度上、市役所は税務署に「こういうことが起きていますよ」と報告して、次に税務署は、「どうなっているのか調べてもらえますか?」と、扶養している側の会社に問い合わせることになるんです。
ちなみに税務署からの問い合わせというのは、こんな書類で届きます。税務署からの問い合わせなんて滅多に来るものではないので、受け取った会社としてはちょっと怖いんです。
こんな怖い書類を受け取った会社は、ちょっとびっくりしながら、社員であるお父さんを呼んで、「君の娘さんの収入のことで間違いがあるみたいだって、税務署から問い合わせが入ってるんだけど、どうなってるんだい?ちょっと調べてみてくれないかな」みたいなことを言うわけです。
そうなるとお父さんは、ミスをやらかして怒られたような気になっちゃいますから、急いで家に帰ってあなたの帰りを待つわけです。でまた、こんな日に限ってあなたの帰りが遅かったりするんですよね。
そこへあなたが、「ただーいまぁー」とかって帰ってくるもんですから、しびれを切らしたお父さんが、「どぉしたぁぁぁ?」ってなっちゃうってわけなんです。
とまあ、こんなわけで、次のスライドの➀と②のタイミングのしくみや親の感情のしくみが理解していただけましたでしょうか?
ここを踏まえた上で、みなさんにやってほしいことをお伝えしますね。
それは、③ 事前と事後に、親に伝えるということです。
すでに音楽活動を始めている、または、これから音楽活動を始めようと思う人は、演奏もしくはレッスンなどで収入を増やす活動をしている、しようと思っているということを、コミュニケーションも兼ねて、親に伝えてみてください。
あなたの儲け・収入・売上・ギャラ・レッスン代などが増えること自体が嫌だと思う親は、基本的に一人もいないはずで、むしろ喜ぶはずです。さっきのケースのお父さんは、何に怒っているのかと言ったら、「扶養外れたならちゃんと先に教えておいてよ」というところにですよね。ちょっとしたボタンの掛け違いに過ぎないんです。
ですから、できれば事前に所得を増やす活動を始める、または今からでも遅くは無いので、していることを伝えてみてください。
もしかしたら、例えば先ほどの【おたよりコーナー③】の日本一の音楽教室を作るんだ さんだったら、今年は「お父さんの扶養を外れるかもしれない」とか、「思ったより増えなかったから扶養から外れないかもしれない」ということがあると思います。
こういった話を、まあ、コミュニケーションも兼ねて、こまめに伝えておいてほしいんです。
で、必ず押さえてもらいたいポイントがあります。それは年末調整の少し前です。
年末調整というのはほとんど年末、12月か1月あたりに行われます。扶養してくれている人、このケースだったらお父さんに、お父さんの会社の年末調整がいつなのか、あらかじめ聞いておいてください。
そして、その年末調整の少し前になったら、あなたの所得が38万円にいきそうか、いかなそうかをお父さんに伝えます。
実際には12月31日を過ぎないと所得がわからない、38万円いくかいかないかが微妙というかたもいますよね。
そういう方は、扶養か扶養でないか、いったんどちらかで伝えておいてください。で、もしも年明けに計算をしてみて、扶養と伝えたのに扶養ではなかったとか、逆に扶養ではないと伝えたのに扶養だったとかになったら、1月中でしたら、会社の方で「再年末調整」というのができます。
年末調整の再計算ということです。
これを、お父さん経由で、会社の年末調整の担当者さんに伝えてもらえばいいのです。
このトラブルは本当に後を絶ちません。この講座をすると、毎回のように、あとからメールをくれて、「講座の日の夜にすぐ伝えました」という人がたくさんあらわれます。
みなさんはもう大丈夫ですね。
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