「フリーランスアーティストを目指すために」(第7回特別講座「若手音楽家のためのキャリア展開支援」)

15. 質問タイム②

ではこれから質問を受け付けながらお話を進めていきたいと思います。

質問(学生④):碓井先生にお伺いしたいんですけれど、ピアノは他の楽器より譜読みが時間がそもそもかかってしまうと思いますし、それだけ海外を飛び回っていらして、タイムマネジメントをどうされているのか不思議なくらいなんですけれど、教えていただけますか?

碓井先生:明日もDUOの本番ありますが、今日もこの講演があるじゃないですか。昨日は深夜2時くらいまで練習しました。今日もこの後も練習します。演奏家って静かにしてる時間とかゆっくりじっとしている時間もとても大事で適当に練習してれば良いというわけでもないので大変です。
例えば、客員教授をしている上野学園大学に向うまで上野駅のエスカレーターが3つあるんです。それを全部歩くか、ずっと乗っているかで全然時間が違います。1回の1往復で合計その差は2分くらいになります。それを1日2分を10年続けたら42時間になるとかそういう比較計算をよくします。
私は飛行機で年間200フライトくらいするので、前と後ろに座るのは10分から15分かかるとか、そういう風に時間を全部タイムマネジメントして、時間を作り出しています。

あとささいなことですが、これが私の財布です。
この中に、クレジットカードと免許証と保険証とユーロとドルと日本円と、インターナショナルキャッシュカードが入っています。そしたら、どこにいっても何も探す手間がないし海外にいっても同じでそこの手間が減ります。こういう風にして時間を作り出しています。

あとは演奏する時、すべてiPadで楽譜を見ています。ヘンレ版もアプリ出しているのを知っていますか?ヘンレ版でIDとパスワードでどこのパソコンで見ても自分の指使いとかがわかるように、アクセスできるようになっています。
譜めくりはストレスを感じたくないので、自分でペダルでしていますが、譜めくりの人にしてもらうこともあります。

また、世界のどこにスタジオ(練習できるスタジオ)があるか・という情報も全部頭の中に入っています。

練習の仕方については、私が留学をした理由のひとつに、藝大にいたときはいつまでたっても練習を沢山しないと弾けなかったんです。演奏会で久しぶりに演奏する曲も再び練習する時間が沢山必要なので、それがとても嫌でした。
なぜだろうなぜだろうといつも思っていましたが、カール=ハインツ・ケマリンク先生に出会い、沢山のことを教えてもらいました。そしたらあっという間に弾けるし、練習時間も減るし、極端な話ですが、譜読みや脳の使い方だけでピアノの鍵盤に触れなくてもピアノを弾けるようになったんです。こういうことを勉強したくて留学しました。
こういうことを勉強したくて留学しました。
一つの演奏会にかける練習時間は激減していると思います。室内楽だったらほぼ2、3回ゆっくり弾けば演奏会にのせられる状態で、コンチェルトやレパートリーになっているものなら1週間あれば十分とか。自分の空き時間を作り上げてきました。

皆さん、空き時間やフリーになった時間って怖くないですか?こんなに暇でやばいんじゃないかなって思ったり。その空き時間こそ喜ばしいことで、そこでゆっくり勉強する例えばその時間で1曲仕上げたら、その曲は一生のものになってきます。そういうポジティブシンキングが大事だということを言いたいです

練習の仕方や楽譜の使い方がすごい大事だと思います。これはピアノ以外にも言えます。

質問(学生⑤):アジアと中東をメインにされていると仰っていましたが、ヨーロッパは結構飽和ということですか?

碓井先生:ヨーロッパでももちろん弾いていますが、結局最後にどこまで行きつくかという統計学で調べてみた事があります。日本人やアジア人がどこまでどの国で活躍できるかということを分析したことありますか?アジアの国の中で最初に自分が活躍をして色々な人とのネットワークになるという考えでも良いです。
もう一つ気づいたのは、アジアで色々なことをしているとヨーロッパの先生が売り込んでくることもあります。私もアジアでいろいろとやりたい!と
私は中東のアラブを中心に活動していますが、自分がどこでネットワークを広げるか武器を持っていたら、必然的に自分に仕事が回ってきたりします。こういうことは学生時代から考えて、本を読んで色々なことを考えていました。
情勢を見極めたり、冷静になり自分のピアノを活かしてどういう風にしたらポジティブに物事を進められるか?ダメかも?しれないというアイディアもポジティブにどのようにできるかを考えて考えて、ときにはジャンプして突き進む事も大事です。不可能はないということです。
不可能はないということです

石崎先生:この質問はとても鋭い質問だと思いますが、投資家でFacebookに最初にお金を投資したピーター・ティールという人がいます。ソーシャル・ネットワークという映画があったじゃないですか。その中の役にも出てくる人物です。
彼が、日本語で『ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか』という本を出していて、この中で言っていることは、競争は絶対してはいけないということです。今碓井先生が言ったことで、自分のポジションをどこに置くというかという話も出てきます。競争をしないで、自分がそこで一番何か活かせることが大きい場所はそれぞれ違うと思いますが、音楽家はより個人を売って行かなければいけないわけなので、このことがより重要だなと思います

日本人に産まれたことを活かして、外国の方に、日本人が来るんだったら、日本の何かがついてくるかもと思わせたりできるんです。中国やインドに行くというのは、日本の中での競争にもさらされないし、自分が日本人だということを、世界の中の1人だということを自覚して、活かせる機会があると思いますセルフ・マネジメントの戦略も大事ですよね。

質問(学生⑥):現代箏曲専攻という新しい専攻の学生ですが、何か新しいことの可能性がないかを探して今日参加させていただきましたが、先ほどのお話で海外にどんどん行った方が良いというお話が私の心にグサッとささって、日本の伝統文化はきっと海外の方に需要はあるはずなので、そもそも演奏したい気持ちとアピールしたい気持ちといっぱいあるのにどうして動き出したらいいかわからず、どのようにして一歩を踏み出したら良いかという何かアドバイスがあれば教えていただけますでしょうか。

碓井先生:邦楽ってすごい羨ましいと思います。ピアノとかヴァイオリンとかは海外に行ったらアウェイでしょ。でも邦楽は一人勝ちですよ。どんどんしてほしいんですが、やるにしてもツテがないとか色々な問題がありますよね。私が最近良く言われるのが、パスポートコントロールでこの場で演奏しないでピアニストだと証明してくださいといわれることがあります。YouTubeの動画とか、証明できるものでです。
あなたはYouTubeの動画は持っていますか?
例えば邦楽で自分でテーマを決めて100本くらいアップしたとしたら、誰かからコンタクトが来るかもしれないです。私はInstagramもしていますが、適当な画像をどんどんアップしていたら、時々雑誌社から使わせてくださいというコンタクトがあります。この間は、上海の地下鉄路線図を載せていただけなのに、女性雑誌の上海特集のところに使われたりしました。こんなこともあるので、何が起きるかわからないので、できることはとりあえずしておくことも大事かと思います。自分のブランドを壊さない範囲で。
あと、横浜シンフォニエッタでよく売り込みのメールが動画付きで来るんですが、その中でもYouTubeのリンクが付いているととりあえずクリックします。添付ファイルだと開きません。ダウンロードしてくださいっていうのはもってのほかです(笑)
動画サイトを使ったり、Facebookにこのサイトを見てくださいと載せたり、ホームページを作り込んだり、そういうことをしていると何かチャンスができると思います。そこに動画コンテンツが100本とか200本とかあると、この人すごいなということで、一気に話が進む場合もあるかもしれないです。どんどん自分ができることをしていくことが大事ですね。

石崎先生:碓井先生と最初出会った時に話しましたが、この時代にスマホがあって、情報は手に入るし、発信するツールはいくらでもあると思います。自分が今できるのにしていないことがあるかもしれないので、とにかく自分のとっかかりを作って、経験をすることですね。経験だと思ってどんどん色々なところに出ていって、色々な人と会っていくということです。結局人と人とのやりとりなので、色々なチャンスがまた巡ってくるし、それを常に発信していくと良いと思います。
碓井先生は私が企画した中国の大使館関係の演奏もギャラなしでしてくれることがありました。それでもこの映像や情報が碓井先生のホームページやFacebookやTwitterにあがるわけですよね。そうしたらまた違う中国人の人からオファーが来たりとか、ホームページを見ることで、この人はグローバルに活躍しているすごい人なんだなと思ってくれたりします。
学生の皆さんは若いと思うんですが、1回でもロシアとかフランスとか、アジア・インド・中国とかで何かで呼んでいただいて気に入ってもらって演奏機会をもらえたら、他の同級生や同じ年くらいの演奏家と差をつけることができると思います。結局、答えは1個ではないので、泥臭くしていくということしかないと思います。
碓井先生のようにインターネットで情報発信をすることや、色々な場所に出て行って、呼んでくださいとアピールしたりすることです。演奏は大事なのですが、効率的な演奏をして、足で稼いでいくということが必要なんじゃないかなと思います。

質問(学生⑦):ピアノ専攻の学生です。今アジアがすごく伸びているということをお話されたんですが、もし自分たちが留学をするということになったときに、中国や韓国などこれから発達してくるところに留学をした方が良いのか、一度欧米に行って、本場を勉強してから、アジアに乗り込んでいくのか、経験的にはどちらの方が良いのでしょうか。

碓井先生:とても良い質問ですね。私がいつも答えているのは、両方やるべきだと思います。最初はヨーロッパ・欧米に行って、そこで経歴を作って、中国語も勉強して(勉強する必要はないかもしれないけど)おくと、後々演奏活動で中国や勉強した原語の国に飛んだときどうなるでしょうか?強いですよね!!

またどちらも経験すれば、欧米のエッセンスもあるし、アジアのエッセンスも加えられてとても良い環境で経験が積めると思います。シンガポールの大学とか、香港大学の音楽部も結構良いと思います。そこで博士号取っている人もいます。
現時点でこのアドバイスはできるのですが、また3年後はどうなっているかわかりません。
その時々の自分の判断がすごく大事です。しかし、先ほども言ったように、まず弾けないといけないし、テクニックとか初見力とか臨機応変に対応できる能力も身に付けることが必要だと思います。まずは、国際コンクールに出せるレベルを身に付けておくということです。
私が唯一後悔しているのは、結構沢山のコンクールをキャンセルしたことです。最後までちゃんとやり遂げればよかったなと思っています。今はコンクールの賞金がとても多いですよね。コンクールで賞金を取るという手段もあると思います。

質問(学生⑧):ファゴット専攻の4年生学生なのですが、質問が2つあります。
1つ目が、最初にヨーロッパで勉強してからアジアに行くお話をされていたのですが、具体的にアジアに行って何をするのかというと全然思い浮かばないので、どう行動したら良いのかということ。
2つ目は今4年生のこの時期で、国内でフリーでしていくのか、藝大の院生に入るのか、とても迷っています。大学院に入ることのメリットなどもあれば教えていただきたいです。
また、留学したときに、碓井先生は、演奏会をして稼いだお金で日本に帰ってきたと仰っていましたが、何のコンタクトもない状況で留学した場合、演奏会のようなこともできない状況なのではと、生計を立てていくのが不安です。

碓井先生:1つ目の質問についてですが、例えば欧米で勉強して、香港フィルや香港シンフォニエッタで演奏されている奏者が多いですが、日本人も結構いらっしゃいますよ。インドに行ったりすると、インターネットのサイトで普通にオーケストラの募集をしていることもあります。
私は昨年、ガラパゴス諸島に遊びに行きました。街を歩いていたら音楽教室があったので、あ、ここでも働けるなと思いました。そこの音楽教室に入って少し話しましたけど、ここでもちゃんと需要があるんだなと思いました。なので、インターネットツールを使って、演奏の機会を得る方法を見つけたりすることもできますし、コンタクトが無ければ、演奏会に行ったときには奏者の楽屋に行ってお話などすればよいかと思います。演奏のチャンスをいただけませんか?というように直接コンタクトを取るのも良いと思います。

2つ目は、私は大学院に行きませんでしたが、卒業する前にヨーロッパに留学したということが理由になったかもしれません。私は自由にやりたかったというのが大きいかもしれません。

もう一つ、海外での生計の立て方ですが、今はビザが簡単に取れるようになったので、働きやすくなりましたね。アーティストビザなどもルールが出来てきましたし。管楽器の奏者の方は海外でよくしていますが、ルームシェアもうまく利用すると、そこで情報が広がったり、先輩方のオーケストラや演奏のことを身近に聞けたりして良いのではないでしょうか。

石崎先生:コンタクトを取るときにメッセージを送ることになりますが、送り方のポイントがいくつかあります。先ほど言ったエレベーターピッチのように短い言葉で自分の長所をいかに伝えることも大事ですが、ある程度の自己紹介を冒頭で書いて、その上で悩んでいるからメッセージを送るわけですから、悩んでいることをすごく端的に送ることです。問題点と自分がやる気があって送っていることを一言二言で伝えることです。そしてそのことについて出来る限り自分が努力したいということをメッセージで伝えることが大事です。
最後に一言お伝えしたいのは、今からやればできるかもしれないけど、今までしてこなかったというネットワークの面とかコンタクトの面とかが問題になっているだけだと思います。これは試してみれば良いことです。私たちが今日お伝えしたことは、そうはいっても…と戸惑う内容かもしれません。しかしながら、きっと後になって、この講義で先生たちが言っていたことだ!と感じるかもしれません。大変だと思いますが、ぜひこれから頑張ってください。

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