「フリーランスアーティストを目指すために」(第7回特別講座「若手音楽家のためのキャリア展開支援」)
6. ARTmentについて
碓井先生とインドのデリーでトムヤムクンを食べている時のことです。
藝大生も東大生も教育費にものすごくお金がかかっているんです。シンガポールの国立大学やハーバード大学も比にならないくらい相当のお金を教育費にかけていますね。ただ、東大も藝大も、こうしなきゃいけないというのが多い気がします。特に藝大生は東大生よりも一般的に音楽家で仕事を得ていくのは難しいと思うので、変なプライドだったり、自分の思考が凝り固まっていることで、教育費をかけて磨かれてきたものが、本当に次に活かされないということになります。それはとてももったいないという状況だと思います。このような話をしたときに碓井先生が同意をしてくれて、皆さんのような音楽家や芸術家たちに、何か社会で生きていくためのスキルとか知識があったらいいな、そして繋がりやネットワークを私たちボランティアで良いからやった方がいいんじゃないかと話し合ったのが2013年の3月です。
ARTmentを設立したのがもう6年前になりますね。二人とも結構海外を飛び周っているので、あまり日本にいないですが、細々とボランティアに近い形で、色々な企画をしたり、色々な町興しイベントをしています。
こういう形で芸術分野の起業家、創造分野の起業家を輩出したいというビジョンがあって、同じ考えの人が増えてくると、当然創造性にあふれた美しい社会が作れるだろうと思ったので、二人で始めたことがARTment設立のきっかけです。
芸術社会というのはすごく隔たりがあって、特に今の社会の一般的な枠組みでは活かされない芸術を学んでいる学生だったり、そういうことを学んでいる方が社会に埋もれていると思うので、何か活かせないかと思います。
マインドセットということだけではなくで、デザインシンキングということが今のビジネス社会ですごく言われていることです。
デザインシンキングって聞いたことある方いますか?
何かという定義は難しいのですが、もっとクリエイティブな発想を持ってビジネスをしていくことです。ロジカルとか、マネジメントだけだと答えが出ないんです。
なぜなら、今のビジネスも社会も答えがないじゃないですか。日本を代表する大企業が倒産したり買収される時代です。全く不確実で答えがない未来というのが待っていて、私たちはすでに片足を突っ込んでいると思うんです。
私たちがビジネスの世界で、日本が中国やインドと戦わなければいけないのと、皆さん音楽の世界も多分同じだと思います。
碓井先生:ちなみにインドは2年前からピアノのコンクールが始まりました。インドは今急成長中です。
石崎先生:私たちが戦っていくルールとか理解しなければいけない世の中のしくみが、とても変わってきていて、これがビジネスとか社会、芸術家の世界も全く同じだと思います。ただそこで繋がってくる可能性があるんじゃないかと思っていて、講演会をしたり、ワークショップをやったり、イベントをやったりしています。
7. アートメントの歩み①
私たちが何をしてきたかというと、結構色々企画してきました。
過去にもカメラとか車とか、皆さんが絶対に見たことがあるようなものを作ったデザイナーで慶応大学の先生をしていらした酒井直樹さんや、
ライフネット生命の創業者の出口治明さんとか、VIPな方や新進気鋭の若手まで本当に色々な人が講演してくださったりしていて、こんな感じで過去のセミナーやテーマがありました。
8. アートメントの歩み②
私たち実は結構町興しをしているんです。碓井先生が色々なところで自治体と仲良くなってくれるので、こういう形で繋がることができます。
碓井先生:最初にピアノの公演で行った場所で、その後町興しするんです。
石崎先生:2人で一緒に行って、町興しするんですけど、下田って知ってますか?
ペリーの黒船が来航したところです。碓井先生がすでに下田でコンクールをしていたり、非常に素晴らしい音楽的な活動をされていたので、下田に行くことができました。
下田って遠いんですよ。でも下田は観光資源があったり、歴史豊かな町です。
ただ町興しをやろうといっても面白くないということで、藝大生や東大生もたくさん来てくれたんですけど、三菱商事や電通とかの人も来てくれて、若者2,30人で行くことができました。3グループに分けて、3時間くらい町を観光して、この町をどうしてプレゼンするか2時間で考えて、最後に1時間で講演するというすごい企画だったんです。
本当にその場で出会った人たちが考えた企画なの!?というくらい素晴らしい企画が出て、そういう時に藝大生ならではのアイデアが出たりとか、それぞれの役割が分担されていて、面白いチームと企画ができました。
また、千葉の多古町というところも碓井先生が関係してくれているんですが、多古町のアートフェスティバルというのが2016年8月にあって、新聞にも出ました。これは2回目も開催して、このフェスティバルもなんとか続いているんです。こういう企画は面白いなと思ってやらせていただいていて、そこで出来た繋がりが新しいなと思ったりしています。
碓井先生:今成田空港と中部国際空港セントレアと、但馬空港で空港ピアノという企画を頼まれています。ぜひ皆さん興味があれば成田空港の制限エリアでどんどん弾いてほしいです。
普通にイベントをするのではなくて、そこではギャラを出してもらって、きちんと待遇してもらうという条件のもと、楽器を弾くということで企画をしています。そこがキーポイントだと思います。きちんと勉強してきたのに、待遇があまり良くないということも私もありましたので、このことは後輩に引き継いでほしくないなと思っています。
石崎先生:碓井先生が今言ったように、ギャラや契約のところはきちんとプライドを持ってやるということが大事だと思います。意固地になってはいけないと思うんですが。
碓井先生は毎回どこに行っても現地と仲良くなって、私を連れていってくれるんですが、必ず、ここぞ!というご縁があれば、次の話をするというのが大事だと思います。
ビジネスも全く同じで、私はインドとかイスラエル、ヨーロッパとか色々な所に行きますが、一部の人たちを覗いて、定期的に何もしなくても連絡を取り合ったり、何もしなくても次のビジネスの話をするという関係って少ないです。そうすると、1回ミーティングをして、次にイスラエルに行くまで1ヶ月後なので、じゃあそれまでどうするかという話なのですが、ちゃんと「To Do」とか何をするかの具体的なアイデアを出して帰らないと、関係って本当に切れてしまうんですよ。必ず何かで会ってご縁がる人がいたら、自分をきちんと出すことです。
エレベーターピッチというのがあります。アメリカの企業は日本の遥か比じゃないくらい縦社会で、媚びの売り合いなんですが、社長とか偉い人がエレベーターに乗っていたら、エレベーターの中の10秒か20秒で自分をどれだけ覚えてもらうか、アピールするかというのが、ものすごく大事です。
インド人はとてもアグレッシブで本当にこれをしてきます。皆さんも絶対やった方が良いと思いますし、パッとすぐにアピールできる物を持っておいた方が良いと思います。
碓井先生:逆にそこで自分を売り込めなかったとしても、こんな人知っていますよとかという話をしたりします。そういうことで人と人を繋いでいきます。
石崎先生:そういうのでも良いと思います。なので、違うテーマでこういうことをする人がいるということをアピールしたり、人脈の引き出しが多い方が良いですね。
9. アートメントの歩み③
これはチャリティーコンサートですね。随分企画していますが、ここにある以上に開催しています。対外的なコンサートだけここに書いてあるんですが、本当に素晴らしいコンサートでした。
碓井先生:この企画はANAがスポンサーになっていますね。
石崎先生:そうなんです。チケットを出してもらったり、会場費を出してもらったりとかしています。ちゃんと企業が政府にビジョンを伝えてやれば可能です。これは外国だからできたものの日本だったらできなかったと思うんです。
私はインドの地元のネットワークがあって、かつ日本でこういうピアニストが来ますというテーマで「power of music」というのはいまだに企画しています。この間も北京で開催して、大先輩の方が現地で頑張ってくださり、本当に良いイベントになったんです。これはぜひ続けたいと思うので、興味のある方は手伝ってもらった方が有難いかなと思います。
碓井先生:こういう時に、石崎先生がしっかりしているのは、メディア関係にちゃんとアピールしているんです。新聞にも全部載せて、テレビにも出て、メディアにもしっかりしたアピールをして、記録を残すことも大事ですね。
石崎先生:絶対海外ではチャンスがあります。特にインドとか中国とか、これから来るところに張っておくことが大事です。なぜかというと私は東大のフランス文学・哲学を出て、1年間音楽で留学をして、あの人音楽してた人でしょ?って、東大の友達はみんな思っているんですけど、その時26歳なんですよ。普通だったら社会人4年目とかですよね。それで初めて私はインドに行った時に、スーツを着て、名刺交換をさせてもらったと言いましたが、かなり出遅れたんです。今年33歳になります。碓井先生とは10歳くらい違います。
碓井先生:石崎先生はインドに行ったんですけど、その時にインドは現地採用で行っているから、お金もそんなにもらえないんです。でもそれにも関わらずリスクを冒したというのはすごいですよ。そこで実地体験をさせてもらうということが大きいですね。
石崎先生:これは多分、典型的なエリートの優秀な方はできないんですよ。
今考えると理不尽なことって社会に多くて、自分でコントロールできないことの方が多いです。これからもっと私たちの世の中はたくさん大変なことが起きると思います。
東大の受験の時も辛かったです。なぜかと考えていたら、判断する基準が点数しかないですよね。藝大も藝大の試験の基準でしか判断がないですよね。そうではないんです。
マサチューセッツ工科大学(MIT)の先生とこの間話していたら、東大は例えば、走るのを決めて、誰が一番早く走れるか、誰が一番遠くまで走れるかという点数で決まっているんですが、MITは違いました。どの方向でも良いから一番遠くに紙飛行機飛ばした人は勝ちというような感じです。それはすごく大事なことだと思います。
碓井先生:藝大はそれに近いですね。自分がドイツ流に弾くか、フランス流に弾くか、また大西洋とアメリカの弾き方って違いますよね。自分が合うところで勝負すれば良いと思うんです。私はアラブの専門になったので、そちらを弾くのが大好きなんです。
とにかく自分が合わないものは無理して弾かないことです。自分のできるところで勝負していくことです。評価というのは絶対じゃないので、合わなかったら他に行くとかを考えても良いと思います。
例えばこのインドも、これから色々な人が必要とされてきます。石崎先生とムンバイに行ったときに、日本人が本当に足りないので来てくださいと言われたりしました。
分かっている人は結構海外に出ていったりしていますが、日本はコンタクトを取りたがらず、自分でどんどんしていきたいという方が多いので、自分で裸一貫でそういうところに乗り込んでいって繋がりを作って仲良くなるというのはありだと思います。
石崎先生:これからどんな場所がホットなのか、そこで求められてくる力とか必要なネットワークやスキルとか何を皆さんが学生のうちにやったほうが良いかということは後で掘り下げます。
私はアートとか芸術がこれからもっと儲けられると思います。
絶対に今からアートとか右脳とか感性、クリエイティブな方向に、スキルを持っている人が世の中でお金を稼いでいくようになると思います。
ただ、稼ぐためにはやり方がありますので、能力を持っていても、そのやり方を知らないと、最後は溺れてしまいますよということです。なぜなら、基本的に三大欲求はビジネスとして成り立っていきます。
睡眠とか食欲などです。脳科学の治験で面白いなと思ったのが、米国の大学の研究なんですが、寝ているときとか食べ物を食べているときとかそういう時に反応している脳と、良い音楽を聴いている時感じている脳が一緒なんです。