2021年度【キャリア形成に関する卒業生・若手音楽家へのインタビュー】ベーシスト・木村将之 氏

 東京藝術大学音楽学部音楽総合研究センター《シンクタンク機能社会・発信室》は、『2021年度音楽学部若手作曲家・演奏家・研究者支援事業』採択事業として、様々な専攻の若手卒業生をお招きし、【キャリア形成に関する卒業生・若手音楽家へのインタビュー】を実施いたしました。
 
 当室教育研究助手の屋野晴香がインタビュアーとなり、音楽家同士だからこそ分かり合える活動のあれこれや、アーティストとしてのこれまでの道のり、在学生へのメッセージをうかがうシリーズ企画です。

 卒業後の道のりは、同じ専攻であっても十人十色。音楽学部全体を見渡せば、アーティスト活動の軌跡は千差万別です。在学生の皆さんには先輩のお話を参考のひとつとし、自分自身の進路を見つけるためのヒントにして頂きたいと思います。

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 今回のゲストは、ベーシスト 木村将之(きむら・まさし)さんです。木村さんは、コントラバス専攻を学部、修士と進まれ、現在はクラシックにとどまらず、ミュージカルの現場やスタジオでの録音等、多岐にわたるご活躍をされています。

ベーシスト 木村将之氏(撮影:屋野晴香)

《ゲスト:ベーシスト・木村将之》

東京藝術大学卒業、同大学院修士課程修了。前田憲男trio、中西俊博Reels Trip、中村善郎Cool Bossa +に参加。東儀秀樹、上妻宏光、甲斐よしひろ、伊東ゆかり、林部智史、kainatsu 、乃木坂46等のツアーに参加。コントラバスアンサンブル「Black Bass Quintet」で3枚のアルバムをリリース。オリジナル曲を中心に収録した「Weeping Cherry」全編エレキベースの「ELECTRIC SIDE」2枚のリーダーアルバムをリリース。クラシック、ジャズ、ポップス、など様々なジャンルで活動中。公式サイトhttps://www.kimuramasashi.com/

 

《聞き手・企画・構成:屋野晴香》

ウィーン国立音楽大学器楽科ピアノ室内楽専攻を学部・大学院ともに満場一致の最優秀で修了。東京藝術大学音楽学部では楽理科に学ぶ。2020年度より同大学音楽学部 音楽総合研究センター シンクタンク機能社会発信室にて教育研究助手を務める。

 

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木村さんは在学中にインストバンドでメジャーデビューをされ、藝大では「ジャズ・イン・藝大」ご出演や、卒業後も先日開催された《藝大プロジェクト2021 ピアソラ 百年の旅路 第2回「ピアソラ巡礼」》にゲストとしてご出演されていますね。オールジャンルに活躍されていますが、現在の活動内容のご紹介をお願いできますか?

今はクラシックはあまりやっていませんが、スタジオ(録音)・ミュージカルのオーケストラピットでの仕事・コンサートやライブでの演奏があります。ひとつの事をずっとやっているよりは、色々な事をやっていたいタイプです。

以前SNSで今日は大阪でロック系のサポートで、次の日は東京に戻ってスタジオミュージシャンで、そのあと現代音楽のリハがあると投稿していらっしゃったこともありますよね。学生時代にすでにジャズベーシストとしてすでに各地のライブハウスでご活躍されていた印象が強いですが、現在はライブハウスでの演奏よりも、スタジオのお仕事が多いのでしょうか?
 
今はライブハウスでの仕事はかなり減っています。正直なところ、ライブハウスの仕事が沢山入っているとスタジオの仕事がなかなかできないという実情もあります。ライブハウスの仕事はブッキングされるのが数ヶ月前で、スタジオの場合は「明日空いてる?」と急に連絡が来たりするので、先々のスケジュールが埋まっていると受けられないんです。

スタジオの仕事が好きなので、ライブハウスからまったくお声がかからなくなってしまうかもしれないと思いつつも、選択して、少しずつライブハウスからスタジオの仕事にシフトしていったという経緯があります。

取捨選択をする場面があったのですね。”選択”といえば、木村さんはもともとジャズベーシストを目指していらっしゃったとのことですが、プロになろうと思った時に、藝大を目指すことになったきっかけや、何かアドバイスをくれた方が近くにいたのでしょうか?

SNSなどがない当時、少ないつてを辿って、プロのベーシストにお話を伺いに行きました。その方や高校時代に入っていた吹奏楽部の指導していた先生に、「藝大に行きなさい」と言われました。

また、当時憧れていたジャズベーシスト達も経歴を見るとクラシックを勉強していた人が多く、将来的にはジャズを目指すけれど、クラシックもちゃんと勉強しようと思いました。

学部時代からもうすでにミュージシャンとしてご活躍されていて、すでにインストバンドでCDデビューもされていましたよね。それでも”クラシックの大学”である藝大で大学院に進学されたのは、何か大きな理由があったのでしょうか?

その頃すでに学内では「ジャズの人」というイメージになっていたと思うのですが、大学院に入れたら胸を張って「クラシックもできる」と言えると思ったことと(笑)
あとは、やっぱりしっかりオーケストラを勉強したかったというのが理由ですね。

学部生からよく聞く悩みとして、院に進むか留学するか就職するか・・・といった声を聞きますが、木村さんの場合は「オーケストラを勉強する」という明確な目的があっての大学院進学だったのですね。

大学院なら藝大オケで弾かせてもらえるので、エキストラでちょっとずつ色々なところで弾くよりもかなり経験を積めたと思います。そしてクラシックのオーケストラをちゃんと経験したことが、いまのミュージカルのオーケストラピットでの仕事に活かされていると思います。

学生時代から活躍されていたので、その流れで現在に至っている部分が大きいのか、または自分で意図してこれをこう進めようと思って計画をたててキャリアを歩んできたのか、どのように進まれてこられたのでしょうか?

流れを辿ってみると、まず学部に入学した時に、凄いベテランのジャズベーシストの方が別科で同時に入学されていたんです。(編集注:秋本公彰さん)。そこから、ドラムの猪俣猛さんに繋がり、前田憲男さんに繋がり、かなりライブハウスの仕事も広がっていきました。最初の頃はライブばかりやっていましたね。

偶然とはいえ、凄い出会いですね!

その後学年が上がるにつれて、スタジオの仕事やオーケストラのエキストラ、ミュージカルの仕事など幅が広がっていきました。そのミュージカルの仕事で初めて、ウッドベースとエレキベース両方を弾くということをやりました。

エレキ出身の方がウッドベースをやって、さらに弓までというのはなかなか大変なのですが、自分の場合はそれができたこともあり、ミュージカルの仕事を沢山やるようになっていきました。 

同じく藝大のコントラバス科出身のメンバーで、コントラバス・クインテットも組まれていらっしゃいますよね。

学生時代からライブをやり始めたのですが、普段吹奏楽部で日陰の存在のパートとして弾いているコントラバスの子供達が目を留めてくれて、そういう子たちが全国に広がっていった様子です。

編曲した楽譜のほか、グッズなども制作されていますが、それもわりと早い時期からされていたのでしょうか?

グッズはわりと最近になってから、結成10年ほどしてようやく作ったんです。最初はCDを出すということにも気持ちとしてハードルが高くて躊躇するメンバーもいたくらいなのですが、作ってみると割と買っていただけたので、今となっては「もっと早くやればよかったね」なんて話しています(笑)。

自粛期間中には、木村さんご自身がリーダーのアルバムを制作されていましたよね。

リリースしたのは自粛期間と重なったのですが、制作自体はコロナの1年前からやっていました。
仕事現場では「木村といえばウッドベース」というイメージを持っている人がほとんどで、「エレキベースも弾くんだね?!」といわれることが多かったので、エレキベースを弾くことを全面に出したアルバムなんです。

それぞれのメンバーの自宅に行き、各自が宅録の機材も持っている人ばかりだったので、その機材で録ったデータをもらって、自分で編集も行いました。

自分の名刺代わりというところもあったので、人選から全て、ジャケットの作成はもちろんお金周りのことも自分でやりました。

クラシックの世界だと「自主リサイタル」と同じですね。セルフプロデュースはこれからのアーティスト皆に必要なことですが、これからアーティストとして活躍することを目指す学生さんたちに何か助言するとすれば、どんなメッセージを伝えますか?

今、ある程度キャリアを経て人を探す立場になって思うのですが、「こういう事できます!」という売り込みというか、アピールをしてくれないと、こちらも存在がわからないんですね。
そういうことに抵抗のある人もいるかもしれないのですが、やったほうがいい。

それと、活躍している人のそばに行く事も大切かもしれませんね。活躍している人たちは人を探していることも多いので。ある程度の「がっつき」は必要かなと。

あと実感としてあるのは、クラシックの学校のなかでクラシックじゃない活動をしていたり、それを言っていると目に留まるというか、引っ張ってもらいやすいというのはあると思いますね。

木村さんご自身のミュージシャンとしての今後の夢や目標・また課題としていることなど、お聞かせいただいてもよろしいでしょうか?

実はいま、具体的な夢とかなくて・・・(笑)、現状が理想的な動き方かなと思えています。

大学を出たての頃は、「ポップスのメジャーシーンで活躍している人のサポートメンバーになりたい」というのが一番にあったのですが、そういう仕事もさせて頂き、色々な現場を経験していくうちに、そこが一番というわけでもなくなったんです。

色んなことを少しずつやれている今は結構良い感じだと思っていて、近い目標を掲げるとすれば、エレキベースでのアルバムを先日出したので、次はコントラバスで作れたらいいなとは思っています。