自分のことを語ってみよう:あなたが見えてくるプロフィールの書き方②(『若手音楽家のためのキャリア相談室5』)

箕口一美

誰に読んでもらうプロフィールか考えてみましょう

 

1. プロフィールを書くということ

(本稿は2009年『ストリング』誌7月号に掲載された記事の改訂版となります。)

東京藝術大学大学院の芸術環境創造研究で、2006年から「音楽家のキャリアマネージメント」という講義をさせてもらってきました。『Beyond Talent』【アンジェラ・マイルズ・ビーチング『BEYOND TALENT:音楽家を成功に導く12章』箕口一美訳、水曜社、2008年。】の翻訳はここから生まれた、と言っていいでしょう。毎年それぞれの問題意識を持って取り組んでくれた学生たちの熱意と探求心のおかげで、日本語版として深めることが出来ました。

翻訳が終わった2008年からは、自分のキャリアを切り拓こうとしている演奏家志望の学生を支援する「キャリアサポート」プログラムの骨格作りをしました。ちょうどダンスを専門としている学生が二人いたので、他ジャンルではよく用いられているコミュニケーション・ワークショップの手法を、音楽家、特にクラシック音楽の演奏家のために応用して、「自分を客観的に見つめる」実感と実践に結びつける方法を議論し、演奏科の学生に呼びかけて、トライアルもやってみました。

今年は、昨年の議論を、キャリアへの準備の役に立つ(使える)形にしていくプログラム作りに挑戦中。プロフィール作りを軸にして、音楽家としての自分の姿をがっちり掴む、自覚するというワークショップを、もし4日間の研修会として行うとしたら…というのが課題です。構えずに自然体で「自分を掴む」(自分探しではないですよ)ことに取り組んでもらいたいけれど、正面向かって「あなたはいったい誰ですか」というのも昭和四〇年代っぽい(わかる人だけわかってください)・・・

今日のゼミでは、「他の人に向けて、自分の取扱説明書を書く、というやり方はどうでしょう」という発案があって、大いに盛り上がりました。『ヴァイオリニスト○○を快適に(!)使っていただくために、ご使用の前に必ずお読みください』――遊んでいるように見えますが、取扱説明書の語法や話法で、自分の特徴を他人にわかりやすく説明してみようとすることで、思わず想像力が刺激を受けます。この手法の可能性をゼミの学生といっしょに、ちょっと突っ込んで考えてみようと思っているところです。

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2. 用途別にプロフィールを書き分けよう

さて今回は用途別にプロフィールを書き分けることに取り組んでみましょう。

前回で作った「アンジェラのリスト」の答えと「じぶん年表」が原材料です。この2つを書き、他の人にも読んでもらって感想を聞くという一連の作業の間に、かなり「自分を掴む」ことができているはずです。後は書くだけ。

今回は、用途別の基本プロフィールを書くための構成の仕方を中心にお話ししていきましょう。

3. 基本編その1:音楽家としての自分を知ってもらうためのプロフィールの段落構成

まず、自分を演奏家として雇ってくれる、あるいはその可能性がありそうな主催者や公演企画者に、音楽家としてのあなたをアピールするための、「公式プロフィール」を作ってみましょう。将来的には、あなたの演奏録音・録画やフォトCD、批評や掲載記事などと一緒にした「売り込み資料(プロモ・キット)」の一番上につけるもの。これは少し長めでもよく、音楽家としてのあなたが多角的に見えるプロフィールになるように書きます。

大事なのは、段落構成です。最後まで読んでもらえるように、先を読みたくなる構成を工夫してみましょう。

以下に述べるのは、ひとつの例です。元はアンジェラ・ビーチングが『ビヨンド・タレント』の中で詳しく書いている、いわゆる「アメリカの例」。日本の慣習とはちょっと違いますが、アンジェラも「他の人にはない何か特別な情報が書かれていて、読んだら忘れられないようなもの」にすることが肝心と書いています。なので、他の人のプロフィールの書き方(いままでの日本流)とは違うことこそ、印象に残る効果があるでしょう(でも、最近はこの書き方が増えてきているような気がします。今のうち!)

 

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• 最初の段落:あなたのキャッチフレーズを織り込んでみましょう

あなたが同じジャンルの(例えばピアノの)他の演奏家と何が違うのか、どんなピアニストなのか、まずは印象づける一言が欲しいものです。

過去にもらった良い批評の一番いい部分を抜き書きする(引用元も書き添えて)のが、常套手段です。

そういうものがなくても、「わたしはこういう音楽家でありたい」と思っていることを書いてみることもできます。「じぶん年表」を作る作業の中で、「自分という音楽家が考えていること」を客観的に分析してきたはずですから、材料はもう揃っているはずです。

2008年の藝大の講義で、学生のひとりを「実験台」にして、プロフィールを作ったときのこと。志願したKさんはダンサーです。「じぶん年表」を作る過程で、或る来日ダンスカンパニーの公演で感銘をうけ、以来これがモットーだと思って来た、という話をしました。これを受けてみんなで作ったプロフィールの書き出しは「《音楽を観、ダンスを聴く》をモットーに、ダンサー、バレエ教師として活動中のKは…」。

へえ、と思わせる掴みになっています。この先を読むと、若いながらも振付や構成の仕事もたくさんしていて、なるほど、こういう「哲学」を持って意欲的に取り組んでいるのだ、と納得します。

さて、あなたのキャッチフレーズは?

 

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• 第2段落:最近の取組み

ここ1年くらいのスパンで、取り組んできたことを書いてみましょう。第1段落との関連性が窺えるものがあるとなお良いです。具体的なプロジェクトやコンサート企画があればそれを、そうでなくても、取り組んできたレパートリー、発見や出会いも「最近の取組み」になります。

 

• 第3段落以降:これまでの取組み

次に、あなたという音楽家がたどってきた道のりを示しましょう。ここでのポイントは「相手の関心を引き続ける」こと。キャッチフレーズと最近の取組みで、ここまで読み続けてくれた人をしっかり掴みましょう。

結果が出た挑戦(オーディションやコンクールだけではなく、自主的に行ったプロジェクトやコンサートも)、人生を変えた出会い(人、作品、他ジャンルの芸術や文学、テレビの番組でも映画、マンガだってOKです)、大きなステージ経験や、放送出演、録音などを、ずらずら書くのではなく、印象に残りそうなことを、挑戦した理由、経験の感想などを短く織り込みながら述べます。

さっきのKさんの場合、踊るだけではなく、振付や研究にも積極的に取り組んでいるとこれまでの活動を簡略にまとめ、その具体例をいくつか並べるという書き方をしています。

ああ、なるほど、だから最初に書いてあったような評価をもらったり、キャッチフレーズのような姿勢をもっているのね、と思ってもらえるように。

 

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• 最後から2番目の段落:簡単な音楽修行上の履歴

やっとこれまでのプロフィールっぽいことです。学んだ学校、師事した先生、参加した音楽祭、講習会、マスタークラス、そこで習った先生。長年師事した師匠たちと、講習会やマスタークラスで習った先生は分けて書きましょう。そこを曖昧にして、びっくりするような有名人が並んでいるプロフィールをよく見かけます。等身大のあなたの姿を伝える誠実さを感じさせたいならば避けましょう。でも、わずか1時間の指導でも、人生を変える出会いになることもあります。それはこの段落ではなく、一つ前の段落で印象的に述べましょう。もしまだ学生だったら、ここで「現在、○○○に在学中」と書くように。未知の音楽家であるあなたに興味を引かれてここまで読んできた読み手は、「おお、まだ学生なのに、よく頑張ってるな」と思ってくれるに違いありません(これもアンジェラが言っていることです)。

 

• 最後の段落:個人的なエピソードやコメントを書き添える

生年(若いときはこれも特徴のひとつになります)、出身地、家族構成、趣味や音楽以外の関心などで、少しエピソード風に書いてみます。読み手が共感できる「フック(きっかけ、ひっかかり)」を提供するチャンスです。出身地がいっしょ、同じ学校の出身者だ、というのは、意外なほど親近感を呼び起こしてくれるものです。

「じぶん年表」の記述が、そのまま流用できる部分でもあります。例えば「学生時代、ブルーノ・ワルターのLP を古道具屋で探し回った父と、嫁入道具にお箏と三味線を持ってきた母の間で、和洋折衷の音楽シャワーを浴びつつ育つ」とか、「ピアノの前よりも、テレビの歌番組の前にいるときの方が真剣だ、と師匠を嘆かせたせいか、いまでもカラオケが好き」とか、ちょっといい話風に、しつこくならず、さらりと。

こうしたプロフィールを書くときの注意事項は、『ビヨンド・タレント』第3章「イメージ作り」の54ページ以下もぜひ参考にしてください。ここに書かなかったことは、すべてそちらに書いてあります。

以上のような内容を、だいたいA4用紙1枚くらいにまとめます。名前と楽器(声種)を大きく書くタイトル部分も入れてレイアウトするので、文字数にして1000字前後まで。1000というとたくさんありそうですが、意外とあっという間です。最初は文字数を気にせずに書いてしまい、その後で添削していくことをお勧めします。

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4. 応用編:チラシ、当日プログラム

この後、さらに「基本2:実績と姿勢を強調する(オーディションやコンクールで求められる「音楽歴」「演奏歴」にあたるもの)」、「基本3:「音楽業界」の外の人たちに自己紹介する(人柄、生き方、あなたらしさを伝える)」と続きます。

今回のコーダとして、チラシのプロフィールと当日プログラムのプロフィールのことを「応用編」として載せておきたいと思います。

チラシと公演プログラム(当日プログラム)のプロフィールが「応用編」なのは、もう勘のいいこの連載の読み手の方々にはおわかりでしょう。そう、とても目的がはっきりした、ターゲットを絞ったプロフィールだからです。

チラシのプロフィールは、短くても確実に相手を掴むことが肝要。この人の演奏を聴いてみたいと思わせなければならないのですから、「基本プロフィール」の第1段落を、さらにキャッチーにする工夫が必要です。しかも、短く!

当日プログラムのプロフィールは、公演に足を運んでくれた人向けですから、掴んだ相手を離さないように、この先の取組(コンサート情報やチャレンジ)の予定や近況を織り込みます。

惹きつけるプロフィールと応援したくなるプロフィール、チラシ用と公演プログラム用のプロフィールが同じではいけない理由はしっかりあるのです。

とはいえ、具体例がないと、よくわかりません!ですよね。まずは付表の「5付録資料「プロフィールイメージ図」」を参考に、書き始めてみてください。

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