「音楽家として生きていくとは?:第一歩としてのプロフィール作り」(第5回特別講座「若手音楽家のためのキャリア展開支援」)

音楽創造・研究センターでは、卒業後の活動を視野に入れた支援として、特別講座「若手音楽家のためのキャリア展開支援」という講演会シリーズを開催しております。こちらのページでは、2017年度の第5回でご登壇いただきました箕口一美先生のご厚意により、その模様を講演録として掲載いたします。当日はワークショップの形でお話いただきました。
これからプロの音楽家をめざしたい方、卒業後にフリーランスのアーティストとして活動していきたいと考えている方々に、意識作りの一環として、ぜひ参考にしていただきたいと思います。

音楽学部特別講座「若手音楽家のためのキャリア展開支援」
 音楽創造・研究センター〈講演会シリーズ〉第5回
 「音楽家として生きていくとは?:第一歩としてのプロフィール作り」

 2017 年 12月1 日 (金) 18:00~20:00
 東京藝術大学音楽学部 5-401教室

 講師 箕口 一美 先生(アート・プロデュース/キャリア・マネージメント)


0. はじめに

こんにちは。2016年の4月にできました、国際芸術創造研究科アートプロデュース専攻アートマネージメント専修というところで講師をやっております、箕口一美と申します。 今日は男性が多いでしょうか。こういうイベントを開催すると、好奇心の持ち方に男女の年齢差があるのかな、つまりお尻の火のつき方が女性の方が若干早いのかなと思うことが多いのですが、今日はすごくいい塩梅に男女のバランスが良くて嬉しいです。芸術関係で生きていくことそのものに男女差はありません。芸大を選んだ段階から、自分の人生に責任を持つ必要があるということです。

責任を持つとはどういうことかというと、国立大学は税金でやっている学校ですから、(私立も税金をもらっていますけどね、)そういう大学を出た人にはそれなりの社会的責任を取ってもらわなくてはいけません。 でも社会的責任を取る・取らないということは、別に税金で育ててもらったからとかそうでないからとかいうことではなく、少なくとも芸術というものに関わって生きていくことを選んだ人は、経済学部に行って、サラリーマンになるという人生がないということです。人生ゲームでいうと、大学卒業コースの方ではなく、大立者コースの方を選んでしまったと思って覚悟する必要がある、ということです。

国際芸術創造研究科長もよく言うのですが、ここの大学は、まず大学というプールの中で泳ぎの練習をしっかりしていって、後は大海原で頑張って!というスタンスのところです。芸大にはそういう役割があります。大海原に出て行かざるをえないわけです。要するに、こっちのプールからあっちのプールに移るという生き方はできません。ですからせめてこの中で、クロール以外、たとえば立ち泳ぎぐらい、沈まないで済むとか、そういうことを含めて学んでいける機会がもっとあると良いんじゃないかなと思っています。

訳させていただいた『BEYOND TALENT:音楽家を成功に導く12章』も、芸術創造環境科で非常勤をやらせていただいたときに、そこの人たちと一緒に読み、手伝ってもらって翻訳をしたものです。今日はこの中からプロフィールという箇所を選んで、お話をしたいと思います。

1. ポートフォリオとしてのプロフィールを作ってみよう!

今日、参加者は色んな年齢層の方々とお見受けします。学部の方は手を挙げてください? 何を専攻されていますか?
――音環です。

音環ですか?それは大変だ。そちらのお二方は?
――楽理です。
――同じく楽理です。

うわぁ! どうして今日はそういう難しい人ばかりいらしてくださったんだろう(笑)! 他の方々は大学院?
――声楽です。
――音環の研究生です。
――民族音楽です。
――ピアノです。

音環では何をやっていらっしゃるのですか?
――作曲です。
――サウンドアート系です。

分かりました。基本的にキャリア系の話は、できればその人と1対1で話をしたいところです。全員当然違いますからね。まして芸術系だったら、一人ひとり動機も違えば、それぞれの専攻や楽器、毎日やらないといけないこと、売り込み方など等、全部異なります。まして楽理であれば、何やりたい?というところから始まりますし、音環なんて自分のやりたいことをやっていれば良いわよ、と言っておしまいになってしまいそうな気がします。

そして1対1で話す際には、持ってきてもらいたいものがあるんですね。それが何かというと、プロフィールの素材です。

 

皆さん、プロフィールって書いたことってありますよね。プロフィールに何を書きましたか?  これが器楽系だとすごく分かりやすいです。たとえばピアノ科によくあるプロフィールですと、まず何歳で楽器を始めたか。いわゆる神童系だと、7歳にしてどこそこのホールでリサイタルを開き、好評を博す。で、日本であれば、日本音楽コンクールとか、いわゆる「毎コン」(全日本学生音楽コンクール)とかの受賞歴がある。在学中に、海外のコンクール、みんながよく知っているコンクールから全然知らないコンクールまで色々ありますが、そこで何々の賞を取ったとか、留学したとか、そして最後に誰に師事したと、ずらずらずらっと先生たちの名前が書かれている。最後は、「現在、東京藝術大学音楽学部~~に在学中」、という感じですね。 200字にまとめてと言われると、先生の名前をどれ削ろうか、と悩みます。

一般的にこれがいわゆる実技系プロフィールのよくあるパターンですね。一番長いバージョンで先生の名前を全部書いたもの、400字バージョンで先生の名前を半分位にしたもの、200字バージョンだとメインの先生しか書けないけれど、この先生を書いてこの先生を書かないと後で義理が立たない!などと必死で悩みながら書くわけですね。

声楽も大体似たような感じですね。声楽ではオペラ系なのかリート系なのか、はたまた日本歌曲系のどこが得意なのか。オペラ系ならさらに役名が並びます。まぁ大体、こうしたことが分かる内容を皆さん書いていますよね。

 

私が今日お話したいと思っているプロフィールは、どちらかというと、美術学部にお友達のいる方は知っている言葉かもしれません、「ポートフォリオ」というものです。これはつまり、「私はこういう作風の人です」ということを見せるものです。たとえば自分の代表的な作品をいくつかカラーコピーしたものをファイルに入れて、「私はこんな絵を描きます」、「こういう傾向です」ということを相手にパッと見せて、アーティストとしての自分を知ってもらうというものを作ります。

音楽家はアーティストとしての自分を知ってもらおうと思ったら、実技系の方たちの場合、最初に頭にまず浮かぶのは、自分の演奏を聴いてもらおうということですよね。作曲の場合も、作曲した作品を聞いてもらいたいですよね。楽譜を見せても読んでもらえません。最近は、インスタレーションも入るような場合は間違いなく映像になります。

でも変な言い方ですが、音源や映像ですと、相手に時間を取らせるものになりやすいですよね。実際、プロフィールと一緒に、僕の、私の演奏を聴いてくださいと、たくさんのCDや音源を渡されます。でも10枚全部聴いてと渡されても時間的にちょっと難しいです。そうではなく、自分がやってきたことをパッと伝えられる形をめざすとなると、やはり紙に書いたプロフィールが必要になります。

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2. プロフィールの素材を自分の中から確認する:アイディア・ソーティング

ではいったい何を書いたら良いのでしょう?
これまで私はアーティストと主催者たちとの間に入る仕事をずいぶんとやってきました。主催者側の方々は大体、演奏家の写真とプロフィールをくださいとおっしゃるわけです。あるいはこういうコンサートをやりたいんだけど、弦楽器のアンサンブルで誰か良い人たちはいませんかと聞かれれば、私はこういう人たちがいますがいかがですかと、最初に写真とプロフィールを渡します。そしていつもアンサンブルを組んでいる人たちであれば、その演奏音源がありますが、初めて集まってやるという場合には、その人たちだけの演奏音源はないですね。で、大体、紙と写真になります。

主催者の人たちが演奏家の情報をよく知っている場合には、パッと見て、「あ、この先生に習ったのならこんな感じかな」とか、「このコンクールすごいですね」などと分かります。でもそうではない人たちにとっては、先生の名前はおそらく謎の文字列と一緒です。さらにはプロフィールに書いてあることのほとんどが謎。分かるのは、最後にある「現在、東京藝術大学音楽学部○○○専攻在学中」ぐらいのものです。

皮肉なことに、こういうプロフィールを目にした主催者は、芸大にいる子だったら大丈夫だろうといって、この文言が含まれている間は結構採用するのですが、「卒業」と書かれた瞬間、たくさんの卒業生の一人になってしまって、芸大卒業しているんですね、で終わってしまうことがよくあります。残念ながらこれが現実です。

 

さて、今、皆さんの前に付箋(75×75mm、2色、各15枚)と白い紙(A3)がありますね。

まずプロフィールをまとめる前段の作業として、今まで自分がアーティストとして(あるいはアートと共に)、まず芸大に入るきっかけになったものから書き起こしていきましょう。ポイントは、「なぜ自分が今ここに来るに至ったか」です。これをあまり長いフレーズではなく、パッパッと思いつく言葉でまとめていきます。大体付箋1枚に1エピソードぐらいのイメージで、思いつくがままに書いていきましょう。そしてA3の紙の上にペタペタと貼ってみましょう。

「なぜ始めたのでしょう?」「今まで続けてくる原動力になったものは何だったのでしょう?」こういうきっかけがあった、こういうものを見て、聴いて、経験したなど等、色々あることでしょう。平凡だと思っていた人生でも、結構起伏に富んでいたということが、この作業で分かるかもしれません。

たとえば「小学校6年のときに《ファルスタッフ》を聴いた」とかね。こういうことは言われないと、書かないものです。今日は一種のゲームだと思って、あるいはロール・プレイング・ゲームみたいに、こういう人物になったつもりという頭で書いてみても良いでしょう。それを見て、評価するなんてこともありません。この際ですから人生に1回ぐらいは、これまでの流れを振り返ってみましょう。10分ほど差し上げます。なんでも良いので書いてみてください。

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3.参加者の発表

【個人情報につき省略】

4. プロフィールのイメージ図

次に行きたいと思います。配布資料の「プロフィールイメージ図」を見てください。
PDFのダウンロードはこちら】

これは、コンクールに応募するときのプロフィールではありません。でも例えば、自分のウェブサイトを立ち上げたいとか、Facebookやインスタグラムにはあるのかな、自分の自己紹介ページに何か書きたいとなった時に、「私はこういう人です」ということを示す、プロフィールの核になるものと思ってください。ここから色んな編集ができます。このイメージ図は、例えばこういう順番で書いていくと、このプロフィールを読んだ人が、少なくともあなたについて一定のイメージを持ってくれますよというパラグラフ構成になっています。

まず、〈ヘッドコピー〉。これは大事ですね。最近もらった賞や批評、出典がはっきりしている推薦の言葉自分のモットー。自分の推薦の言葉が特にない人は、モットーを書けばいい。例えば「音楽はみんなで楽しむものだ」とかね。「え、それはどういうこと?」とその先に行きたくなるような表現も良いですね。

そしてその下に、〈名前、楽器、声種〉、これらを大きくはっきりと書きます。売り込みたいのはここです。

続いて、〈最初の段落〉です。ここは「つかみ」というところになります。雑誌の記事なんかで、リードがありますね。このリードにあたります。リードって分かりますか? 大きな文章の前に、たとえば本文のインタビューなんかの前に、短い文章が書かれていることがありますよね。そうした導入文のことです。上のヘッドコピーの内容とどういう関係が?と思わせます。ヘッドコピーと最初の段落、つかみの所でうまく共感させて、その先も読んでみましょうという気持ちにさせます。 最近の人の傾向として、皆さん自身もよく分かっていると思いますが、ツィッターの文章以上の長いものを読みたがりません。それでもその先を読む気にさせれば、連投のツィートでも読んでくれるわけですよね。それと同じように、最初のパラグラフというのはすごく大事なのです。

次の〈第2段落〉。だいたい日本人の人たちは悪い癖として、プロフィールを書くときに子供の頃から書き起こしてしまいます。何歳でピアノを始め~~、と。君の過去はとりあえずいいのです。今のあなたはどういう人なのでしょう? どんなことをやっている人なのでしょう? そういった最近の取組みを先に伝えましょう。 たとえば友達と一緒にオペラ作品をやろうとしている、一般社団法人を創ろうとしている、バロック・ヴァイオリンの勉強などをして、バロック期の音楽をヴァイオリンで弾くということはどういうことなのかを研究している、などなど。みなさんそれぞれにあると思います。

そして〈第3段落〉では、どのようにしてそのような流れに向かってきたのか、これまでの取組みや、実際にやってみて結果が出た挑戦を書きましょう。 誰かが誉めてくれた、朝日新聞の記者が面白がって来てくれたということでも良いでしょう。若い頃は、些細なことでも、他の人が認めてくれた経験、つまり独りよがりではなくて誰か周りの人間から届いた評価、外のサークルの誰かに届いた経験というのは、結果が出た挑戦だと思ってください。批評家であれば最高ですが、最近では、新聞批評でなくても、来てくれた方がFacebookでこう書いてくれたとか、ツィートでこういうコメントが出たとかいうものでもよいでしょう。終演後にインスタ映えの写真を撮られましたとか。撮った人に、「これ良いですか?」とか言って、自分のWebサイトやブログなどで紹介するのもよいでしょう。たぶん喜んで貸してくれると思います。

そんな面白いことをやってきた人なんだと思っていただいたところで、ようやく過去に入りましょう。「人生を変えた出会い」と書きましたけれども、結局ここは何かというと、自分はどうして今ここにいるのか、ということです。たとえば、おばあちゃんの影響だったかもしれない。高校の時にピアノを止めようかと思い悩んだけれども、ピアノのない人生は考えられないと芸大に入ったというのでも良いでしょう。色々あると思います。つまり、前の2段落目や3段落目に起こったようなことに至るきっかけですね。

そして、次に自慢を始めましょう。大きなステージ経験放送出演などです。たとえば最近だったら「題名のない音楽会」の○○○特集で、真ん中に映っていたのは僕です、みたいなね。本当にブログにそう書いている学生さんがいました。どこに?!と思うかもしれませんが、こういう情報は人に言うと結構、「へぇ!」と面白く聞いてもらえるものです。昔でしたら、コンクールで何位を取りましたと書いたのでしょうけれども、何のコンクールで何位取ったと言っても、今では誰も褒めてくれません。

つまり現在の私たちにとっては、大きな勲章よりもバズってもらった経験の方が重要なのです。それがこの辺だけでしたら身内でしかありませんが、ちょっと外側に出たのであれば大したものです。ですからこれは凄いでしょ? 君は見なかったかもしれないけど、私はあれに出てたんだよ、と言っていいのです。自慢です。プロフィールというのは基本、売込みなのですから。私はあなたやこの辺の人たちと違うんですよということを、やっぱり言わないといけません。注目してもらえるよう工夫しないと、みんな見てくれません。嫌かもしれませんが、本当のことが書いてあるなら良いですよね。

いよいよ〈最後から2番目の段落〉。ここに来て初めて、みなさんが普通、プロフィールだと思っていることを書きましょう。簡単な音楽修行上の履歴です。日本、そして留学中に師事した先生の名前ですとか、自分が出演したときの出演者の名前を書きます。それまでの話を読んできたからこそ、専門的な活動の背景にこうした先生の下での勉強があったということを知っていただきます。

そして〈最後の段落〉で、個人的なエピソードコメントを載せます。最近、このスタイルが流行っています。若いときはこれも特徴の一つになるというのが、年齢、生年の情報ですね。それから出身地。「私と同じ出身!」と驚いてもらえることがあります。家族構成というのも最近の流行りですね。犬の名前まで書いている人もいます。アメリカの人がプロフィールを書くときに、こういう情報は結構あります。それから趣味や音楽以外の関心。ヴィオラを弾いているんだけど、ヨガの先生でもあります、とかね。これは実話で、私の友人でいます。

最後が連絡先です。こういうアーティストとコンタクトを取りたいときはこちらにどうぞ、と誘います。最近、とても便利なのは、昔でしたら電話番号などを書かざるをえず、それが変なストーキングを招くこともあったのですが、最近はGメールで新しいアドレスを作って、仕事用にすることができます。ホームページの中に問合せ用のページを作って、こちらのメール・アドレスを明かさないというやり取りもできますね。このあたりは最近のやり方でやれば良いでしょう。 本当に自分の住所や電話番号を伝えるのは、仕事を取り付けた後にしましょう。契約書ならばやはり住所を書かないといけないこともあります。プロフィールではあくまで、お仕事の依頼はこちらへどうぞというものにします。自分のプライバシーは自分で守りましょう。

さあ、このようなフォーマットで書いたプロフィールを自分のウェブページに載せれば、大体、あなたが誰かということは分かってもらえます。 あとはたとえばFacebookの基本データのプロフィールにこうしたデータが載っていて、さらに自分の仕事ぶりがタイムラインで上がっていくとより良いですね。友達に「いいね」を押してもらえれば、共通の友達にこういう人がいるのねと広く知ってもらえます。そういう広がりの中から、関係を自分で広く繋げていきましょう。

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5. プロフィール作成準備のための自問自答集

もう一つお渡しした配布資料は、圧縮版と記入用の「プロフィール作成準備のための自問自答集」です。記入用の方は、後で書いてみようというときに使ってみてください。

プロフィール作成準備のための自問自答集【圧縮版】PDFのダウンロードはこちら】
プロフィール作成準備のための自問自答集【記入用】DOCXのダウンロードはこちら】

圧縮版で見ていきましょう。

右欄はフレンドリーに自分を紹介するということが良く分からないときに参考にしていただきたい項目が並んでいます。これは実際に小学校4年生と大人に「演奏家や音楽家について何が知りたいですか?」というアンケートをとって、返ってきた回答です。4年生って可愛いですね。今の質問には、「誕生日!」「星座!」、「血液型!」と返ってきました。これらはいわゆるプロフ系ですね。「動物はなにが好き?」とか「自分を動物に例えると?」とかもありました。「一日どのぐらい練習していますか?」この質問は結構聞きます。あと実は多かった質問が、「その楽器はいくらですか?」でした。声楽家なら「いやちょっと値段つけられません」という答えで良いと思います。体ですから。でも「ピアノっていくらぐらいしますか?」という質問が飛んできます。本当にね、資本主義経済の中で生まれた子供たちからはこういう質問が出てくるのですね。答える側も言い方を工夫します。「ベンツ1台じゃ買えませんね」とか答えると、すかさず「ベンツっていくら?」とまた返ってきます。「お家にある軽自動車っていくらか知ってる? それだったら10台ぐらい買えるかもしれないね」とか、一生懸命ごまかします。

こういう質問への答えを用意しておくと、例えば皆さんがアウトリーチに行ったときに、子供たちとのトークの掴みどころとしてヒントになることでしょう。

大人バージョンのための項目を作るにあたっては、色んな人に聞いてきました。主には公共ホール、公共文化施設などの担当者の方々に聞いてきました。プロフィールなんて読んでも分からないよと言われたので、じゃあ演奏家について何が知りたいですかと聞いたところ、こういう話題が返ってきました。

大人からとなると、やはりレパートリーに関する質問が出てきますね。ここで自分が知っている曲と重なっていると嬉しいんですよね。

それからライフワークコンサート以外ではどんなことやっていますか? あと出身地はどこですか。東京以外のところの方々が関心を持っています。たとえばこの質問が出た方は新潟のホールの担当者で、演奏家が新潟から車で30分くらいのところから来られる方だといいなと思っているわけです。新潟県の演奏家じゃなくても、日本海沿岸の方だと有難いなとか。そこで似たような活動をしているのなら、こちらにも来てくれたら嬉しいなとか。こういうことが結構あります。

あともっとも影響を受けた、あるいは目指している音楽家。音楽家というところを作曲家にしてくださっても、美術家にしてくださっても結構です。好きな音楽評論家っていうのは良く分からないですね。大体、演奏家は音楽評論家なんて好きな訳ないですよね。芸術活動に特に影響を受けた人印象に残っている演奏最も成功した失敗した演奏一番最初に人前で演奏したときの経験

印象に残った旅行先音楽体験。最近、サロン・コンサートに来てくださる方々は、年金を受給されている年代の方が多いわけです。そういう方々は結構、旅行に行っています。それもビジネスクラスで行くなんとか、とか。オプションで、ウィーン・フィルの演奏会も付いていたりとかね。ザルツブルクのお城でコンサート。そういう贅沢な音楽イベントもセットになっています。そういう普通の旅行には行き飽きているとうい方々には、「あ、僕もそこで歌ったんです」とか、「プラハのお城で歌いました」などというエピソードが入っていると、掴みになります。あと好きな本とか、趣味。ちょっといい話として、ここまで続ける原動力となったもの

こういう話題はちょっとした大人の集まりでトークするときにヒントとして持っていると便利だと思います。こういうことは、意外と自分で書こうと思っても何を書いていいのか分からないものですので、音楽家について知りたいと思われていることを参考までに書いてみました。

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6. プロフィールを分かりやすく伝える工夫

美術系の人たちは自分の作品について書くことが好きですよね。時々、読む側としては日本語として難しい!と思うほどです。音楽家の場合は演奏をしてしまえばよいので、変な言い方ですが、あまり自分のやりたいことを言葉で語るということをやってきていません。たとえばあなたは何をやっていますか?
――ドイツ・バロックの舞曲を中心にやっています。
なるほど。それはこの教室の中では何となく分かりますよね。
でも大学の外では、「ブキョク?」と聞いて、頭の中でマーシャルアーツ(武道)を思い浮かべる人もいるかもしれません。残念ながら、あなたが今「舞曲」にすごく夢中になっているということを分かってくれる人は、芸大の門を出てちょっと歩いたら、ほとんどいませんよね。その芸大の門を出てちょっと歩いた先が、私たちがこの先、生きていかなくてはいけない世界なのです。

そこでたとえば「舞曲というのは踊る、舞う曲と書きましてね」というところから始めるというのはどうでしょう。「クラシック音楽の、特に器楽曲というのは、踊りの伴奏から始まったんですよ!」などと言うと、皆なんとなく「あ、クラブで踊っているときのあの音楽ね」みたいな反応が返ってくるかもしれない。「で、ヴォーカルはなかったんですか?」という反応も続くかもしれません。そこで「ヴォーカルは無かったんですよ。ヴォーカルは教会系だったから。」そんなノリで話せるような糸口を今のうちに見つけておきたいものです。社会に出て、「私はドイツ・バロック音楽が好きです」と言っても、世の中の人にはほとんど通じないことでしょう。

こういう風に言えば、舞曲に対してまったくイメージが湧かない人でも、聴く前に少し扉を開けてくれることでしょう。「踊り系が器楽だったんですよ」なんて、知っているとちょっと鼻高に思ってもらえるような言い方をして、相手に心の扉を開いてもらいましょう。そしてこういう工夫を大いにしましょう。特にクラシック音楽はどうしても相手が構えて聴いていることが多いです。その構えているところを少しコチョコチョとやりましょう。

 

プロフィールの内容を分かりやすく伝える、面白い素材を発見するためには、これまでのような作業をしてみて、できれば誰かに話してみることをお勧めします。実際に話してみると、あらためて色々な発見があります。それでもなかなか友達同士で話せないものなので、実はそのために私がやっているようなキャリア・アドバイザーという仕事があります。最終的にアドバイザーは絶対に書きません。プロフィールは自分で書くものです。自分の言葉で書かなくては相手には絶対に伝わりません。もちろん「てにをは」や誤植ぐらいは直しますけどね。

まだキャリア・マネージメントとか、キャリア・デザインとかいう言葉が音楽大学のどこにもなかった頃、卒業直後の若手アーティストがプロフィールの提出に困っているということがよくありました。そこで一生懸命、たくさん話を聞くところから始めて、文章に直して、校正を繰り返して、ようやくプロフィール・データを完成させるという一連の作業が、音楽ホールの一番下っ端のスタッフの仕事でした。プロフィールの文章だけでなく、一年にわたってある演奏家一人をフィーチャーした演奏会を開催するなどという企画の際には、年表を書く仕事もやってきました。皆さんの世代ではこういう親切な人はほとんどいないと思ってください。あと自分で説明できる自分の言葉を持てた方が、この先のキャリアにとっても絶対に良いと思います。

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7. 会場やマネジメントのスタッフの存在

会場側、主催側、あるいはマネジメント側のスタッフ等など、現場では色々な方が下支えしてくださいますが、皆さん、サーヴァントではないです。召使ではありません。一緒にやりたいと思っている人たちです。今の若手世代は、こうした一緒にやりたいという気持ちを比較的よく分かってくれているように思います。ですが一昔前には、演奏家が偉くて、スタッフは偉くないという時代が長く続いていました。 スタッフ・ワークにはとても面倒なことが多いです。たとえばマネジメント・スタッフの場合。主催側から曲目に対するクレームが入り、それを演奏家に伝えなくてはならない立場になります。そういうときには、それをどう演奏家に伝えようかと悩みます。その曲を選んだ人たちのことを仲間だと思っているので、やりたいという気持ちもよく分かるからです。でもその一方で、主催側の意向も分かるのですね。ですから板ばさみになります。

イベントに関わるスタッフとは、sympathy とempathyからなる協力関係で繋がっているということを肝に銘じておきましょう。また例えば楽理で勉強するために入ってきたとしても、職業としてはホールの企画担当になるかもしれません。そのときに演奏家との広いネットワークを持てていたら、とても有利ですよね。ですから今のうちから演奏家の同級生と大いに繋がっておきましょう。ため口で頼める人をいっぱい捕まえておくということです。

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8. 今からネットワークを広げておくことの大切さ

ため口で頼める人を捕まえておく――こういうことが出来るということ自体が、本当に芸大の良いところだと思います。何かを創る、始めると言っても、一人では難しいことが多々あります。そんなときは、美術学部でトンカチやっている人たちに助けてもらえるかもしれません。こういうことを在学中から実験的にできるということが、この大学の良さだと思います。ため口というと変な言い方ですが、上下関係とか変な遠慮なしに話せる時代に、いっぱい知り合いを作っておきましょう。

さらにはこうした関係が、やがてキャリアを助けてくれる存在になるかもしれません。ちょっと脱線しますね。ベートーヴェンがなぜ死ぬまで弦楽四重奏曲を書き続けたか、皆さんご存知ですか? 最後の最後まで弦楽四重奏曲を書いていました。なぜでしょう? 自分もピアニストでしたが、ピアノ曲は意外と早くに諦めています。耳が聞こえなくなり、演奏がしにくくなったのかもしれません。しかしなぜ弦楽四重奏で、構成的にも複雑な作品、たとえば第14番Op.131のように、7つも楽章があって、それも全部ataccaで結ばれるなどといった作品を、最晩年に書くに至ったのでしょう?

それはとても単純な話で、弦楽四重奏団を牽引している友人がいたんですね。シュパンツィヒIgnaz Schuppanzigh(1776-1830)というヴァイオリニストです。彼がベートーヴェンの親友でした。耳が聞こえない苦境の中、シュパンツィヒだけは親友として、面倒見良くベートーヴェンを支えました。シュパンツィヒ自身は演奏家としてできること、つまりパトロンへの委嘱依頼をし、自分が演奏を請け負います。ロプコヴィッツ伯爵のところに行って、ベートーヴェンに曲を頼んでくださいとか、僕がやりますからと口を利き、ベートーヴェンには俺が弾いてやるから書けよ、書けよと言い続けた。彼も弾いてくれる人がいると思うから、書こうと。最後の最後までカルテットだけは書いていました。オーケストラを雇って、交響曲を書こうとすると、やっぱり凄く大変ですよね。お金もかかります。でもマブダチが弾いてやるって言ってくれているんだから、お金の心配をしなくてすみます。しかも仕事も取ってきてくれます。

ベートーヴェンが貴族から年金をもらえるよう、裏で画策もしていました。もちろんツェルニーもそうした仲間ではあったのですが、シュパンツィヒも結構動いていました。ウィーンの狭い世界の中で、とにかくこの天才を腐らせてはいけないと思う友達だったわけです。その人がしかも音楽家で、演奏家で、弦楽四重奏団で弾いていました。四重奏団なら演奏会を開催する際に安く済みますよね。そしてあと3人いれば演奏できるわけです。会場を借りなくても、誰かのサロンで弾けば実現できます。そういう仲間がいたからこそ、ベートーヴェンは本当に作曲家としてやりたいことを、この4本の楽器のなかで実験的に書き続けることができました。

作曲家にとって、演奏家、つまり実際に弾いてくれる人の存在は、とても大切です。ずっと切っても切れない関係できたのですが、どうも20世紀に入ってから違ってきたようです。作曲家は作曲家だけ。演奏する人は演奏者同士でいるようです。こういう状態はもったいないですよね。

シュパンツィヒはベートーヴェンに文句を言うことのできる存在でした。「こんなんじゃ弾けないよ!」と言って、もともとOp.130の終楽章として書かれていた《大フーガ》をつっぱねたのです。そこで《大フーガ》はOp.133として別の作品にされ、Op.130の第4楽章用に新たな楽章が書かれたので、順番に言うと、この第4楽章が、ベートーヴェンの書いた最後の四重奏曲となりました。《大フーガ》は確かに難しい作品です。でもベートーヴェンに弾けないと言える人は、そうはいません。こういう関係を、若く、宮廷の寵児として活躍して行くときから築いています。

ですから最初のプロフィールの宛先は、少なくとも在学中は、仲間かもしれません。プロフィールを書くために、「私はこういうことをやっています」という材料をまとめてみると、案外、それがきっかけで何かプロジェクトができるかもしれません。

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9. プロジェクトで生きていく

アンジェラ・ビーチングは『BEYOND TALENT:音楽家を成功に導く12章』の中で、「演奏家、少なくとも音楽に携わる人たちは基本的にプロジェクトに生きていく」、と大事な一言を書いています。コンサートという言い方もありますが、音楽をめぐって何か新しいことを起こしていく、作っていくということです。プロジェクトというと、音楽環境創造科は得意ですよね。プロジェクトという言葉も大好きですよね。芸術家は基本的にプロジェクトで生きていくのです。

音楽家はコンサートという言葉の方がぴったりきますね。自分ひとりで弾く演奏会も小さなプロジェクトです。自分が弾きたい曲だけを弾くという演奏会が、一番小規模なプロジェクトだとすると、例えばそこに共演者が加わり、コンポーズする相方がいるとなると、これは十分規模の大きなプロジェクトとなります。

演奏会の場合は、期日がきちんと決まっています。そのプロジェクトを完成させるために、そこに向けて、そこから逆算して一つ一つの作業をこなしていきます。これをいくつも平行して進めながら生きていくのが、芸術家としての生き方です。そのための最初の一歩として、自分が何をやりたいのか、自分は何者なのかということをまず自分の外に出してみるという大切な役割が、プロフィール作りにはあります。

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10. アーティストとは

音楽は必ず一回性の芸術です。音楽史に名が残るような演奏家でなかったとしても良いのです。音楽をそこで聴いている人に、「ああ、良い2時間を過ごした、面白い瞬間を経験できた」と思わせることができれば、十分立派なアーティストになれたと言えるのではないでしょうか。 私自身はアーティストではありませんが、そういう面白いことをやっている人に「これは楽しいですね」と言って、お膳立てすることが大好きです。これはとても楽しい作業です。自分は何にもできないと思っていますから、「うわぁ、こんなことが出来るんだ!」「最初の観客だ」などと思いながらやっています。こういう面白さがあるからこそアート・プロデュースを勉強しています。共感できる自分も嬉しいです。共感できるアーティストがいるということが嬉しいのです。共感できるアーティストが、その向こうにいるオーディエンスを喜ばせている。こんな嬉しいことはありません。

私にとって、アーティストはそういう人たちです。別にマリヤ・カラスである必要もなければ、ヘルベルト・フォン・カラヤンである必要もありません。今日この瞬間に、すごい素敵な思い出を作ってくれるという人たちです。そしてそうやって作ってくれたことを、一生忘れません。私が皆さんの年代の頃に聴いた演奏会を本当に昨日のことのように覚えています。でもその演奏は、カラヤンのものではありません。もちろんカラヤンの振った演奏も聴きましたけれども。でも皆さんが名前も知らないような指揮者が振ったシベリウスが、いまだに耳の奥に残っています。その人がそこにいてそこで指揮をしてくれて日本の名も無きオーケストラを振ってくれた、その演奏がなかったら、今私はここに存在していません。ですから一人一人果たしていく役割や、やることは違いますけれど、「あなたじゃなければできないこと」が必ずあります。それはあなた自身の生き方の中から出てきます

私の研究室は音楽学部内にあります。プロフィールを書いてみたんだけど見て欲しいとか、こういうプロジェクトやってみたいんだけど等など、何か相談したいことが出てきたら、いつでもいらしてください。いつでもウェルカムです。これが縁だと感じて、今日参加して良かったなと思っていただけると嬉しいです。

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