若手アーティストとアウトリーチの可能性

目次

1.演奏実践におけるアウトリーチ活動とは?
2.演奏家におけるアウトリーチの意義
3.社会におけるアウトリーチの意義
4.様々なアウトリーチの形
5.アウトリーチ実践に向けてのアプローチ
6.アウトリーチ実践における注意事項
7.参考資料

1.演奏実践におけるアウトリーチ活動とは?

「アウトリーチoutreach」とは、「より遠くに達する事、通常の活動範囲から踏み出す事」を意味します。昨今では、「アウトリーチ活動」という表現が「芸術普及活動」、「教育普及活動」、「地域連携活動」なども含意しながら使われています。
演奏実践におけるアウトリーチとは、大学内やコンサートホールの舞台という従来の枠組みにとらわれず、日頃、当該ジャンルに触れる機会の少ない人々に向かって近づき、働きかける活動を指します。場に応じて、どのような音楽がどのようなかたちで求められているのか、音楽家と聴き手が双方向に関わり合い、模索しながら音楽を生み出していく活動として注目され、多様な実践が行われています。殊に若手アーティストにとってはやりがいのある開拓領域であり、自身のアーティスト活動を展開させていく上でありがたい機会といえるでしょう。あなたもぜひアウトリーチを活用してみませんか?

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2.演奏家におけるアウトリーチの意義

大学在学中、本格的にプロの音楽家としての活動をする前にアウトリーチに取り組む事で、音楽を提供する側と受け入れる側の相互関係が成り立ち、自己プロデュース能力、コミュニケーション能力、マネジメント能力の向上が期待できます。

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3.社会におけるアウトリーチの意義

教育における効果
主に感受性、表現力、創造力を育む効果が期待できます。アウトリーチを行った学校現場では生徒のみならず教員からもその効果は高く評価されており、多くの教員が継続を希望しています。
また、若手アーティストがアウトリーチをする事で生徒と年齢が近いからこその親近感も生まれ、将来の観客の育成も期待できます。

福祉における効果
高齢者施設や障害者施設でのアウトリーチは普段の生活に元気や活力が生まれるだけでなく、高齢者や障害を取り巻く人々や社会との関係に変化をもたらしています。

地域における効果
社会経済の変化によって衰退した地域におけるコミュニティの活性化、地域に対する愛着や誇りの回復など、芸術が地域再生に結びついた事例もあります。

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4.様々なアウトリーチの形

以下のように大きく分類できますが、実際には複数の要素が複合されています。
よく実施される人気のアウトリーチのプログラムは「体験型ワークショップ」で、聴き手の満足度も高いようです。
アウトリーチのすすめ
場所 
・劇場やホール内
・学校、福祉施設、ロビー、野外ステージなど様々な場所に要望に応じて出向く

聴き手
・子供
・高齢者
・障がい者
・病人
・子育て中の母親
・地域の住民

期間
・単発
・継続

プログラム
・楽器体験、実技レッスン
・アーティストの解説付き芸術鑑賞事業
・アーティストと共同で創作
・芸術の専門的知識を学ぶ教養型セミナー、講演
・日頃見られない舞台裏の見学

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5.アウトリーチ実践に向けてのアプローチ

アウトリーチは音楽を提供する側と、演奏場所を提供して演奏家を受け入れる側が居て成り立ち、時には演奏家と受け入れる側との間を取り持つコーディネーターも加わります。
まずは自分が誰に向けてどのような場所で演奏したいかを考え、受け入れる側、コーディネーターとの信頼関係を築きましょう。

・団体の登録アーティストになり、コーディネーターから文化施設へ派遣される
アウトリーチを支援する団体は様々あるため、その中で自身の今後のキャリアアップにつながり音楽に対しての理念が一致する団体を見つける事が大切です。
自身の出身地などゆかりのある地域の団体からは受け入れられやすく、将来その地域で活動する上で大きな助けになると考えられます。

・演奏してみたい文化施設、福祉施設を探す
その施設のウェブページ、掲示板などで若手演奏家による演奏が求められているかどうか確認しましょう。ニーズはありそうだけれど今現在募集をしていない場合は、その施設のアウトリーチ担当、教育・文化担当の方など橋渡しになって頂けそうな方にコンタクトをとる事で次の仕事につながる可能性があります。

・地域で顔が広い人物と知り合いになり、演奏の場を紹介して頂く
自分はどのような演奏活動を行っていて、どういったニーズに対応できて今後どうキャリアアップしていきたいかを、自分の専門音楽を全く知らない人にもわかりやすく説明できるようにしておきましょう。自分の演奏動画などがあると、より理解して頂きやすいかもしれません。

・ホームページ、ブログ、フェイスブック、ポートフォリオサイトなどで宣伝して演奏依頼を待つ
無料で作成できるアプリも多くあります。そこに自身のプロフィール、写真、動画、音楽などを載せる事で不特定多数のウェブ閲覧者にアピールする事ができます。

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6.アウトリーチ実践における注意事項

アウトリーチはそれぞれの音楽の愛好家に聴いてもらうという演奏会形態ではないので、それに対するプログラムや構成などをよく練る必要があります。しかしそれと同時にアウトリーチを受け入れる側の希望だけでなく自分自身の伝えたい音楽やその意思をしっかり持つという事も大切です。

・各責任者の設定
会場設営、舞台転換、司会進行などはどこまでコーディネーターや会場の方にお任せできるのかを明確にしておきましょう。

・演奏する場所、楽屋の状況を確認
アウトリーチはほとんどが演奏専用のホールで開く演奏会とは異なる状況での演奏となります。そのため様々な演奏場所、演奏形態に対応できる柔軟性が必要です。楽器を置く場所の湿度、温度、演奏に必要な備品の有無、観客との距離、写真撮影や録音を許可するかどうかなどはあらかじめ確認しておきましょう。

・出演料、交通費の確認
出演料、交通費などが募集要項に明記していない場合があります。

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7.参考資料

Web
佐野靖、小井塚ななえ、松浦光男「学校音楽とアウトリーチ第一回 アウトリーチとは何か?実践報告」、『音楽教育ヴァン22』、教育芸術社、2013年 http://www.kyogei.co.jp/data_room/kaze/pdf/vent22_4.pdf

財団法人地域創造『文化・芸術による地域政策に関する調査研究[報告書]:新「アウトリーチのすすめ」~文化・芸術が地域に活力をもたらすために』、2010年 http://www.jafra.or.jp/j/library/investigation/20-21/data/20-21_1.pdf

的場康子「アウトリーチ活動の意義・課題についての一考察:現代における芸術文化の社会的役割」、第一生命経済研究所『ライフデザイン研究情報』、2003年 http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/ldi/note/notes0302.pdf

岡部裕美「子育て支援としての継続的音楽アウトリーチの可能性(1):身体表現活動からコミュニケーション能力の向上へ」、『千葉大学教育学部研究紀要』、第60巻、2012年、215~220頁、http://mitizane.ll.chiba-u.jp/metadb/up/AA11868267/13482084_60_215.pdf

岡部裕美、鈴木香代子「学校と演奏家の連携による音楽教育の可能性:継続的なアウトリーチ活動の事例を追って」、『千葉大学教育学部研究紀要』、第58巻、2010年、109~120頁 http://mitizane.ll.chiba-u.jp/metadb/up/AA11868267/13482084_58_109.pdf

吉本光宏「REPORT I:アートと市民・子どもをつなぐ『アウトリーチ活動』~芸術による社会サービスの可能性」、ニッセイ基礎研究所『ニッセイ基礎研 REPORT』、2001年 http://www.nli-research.co.jp/files/topics/35803_ext_18_0.pdf

文献
林睦『音楽のアウトリーチ活動に対する研究:音楽家と学校の連携を中心に』、Bookpark、2003年

林睦「音楽のアウトリーチ活動に関する一考察:日本における導入の10年と今後の課題」、『音楽教育学の未来 : 日本音楽教育学会設立40周年記念論文集』、音楽之友社、2009年、280~290頁

NPOトリトン・アーツ・ネットワーク『アウトリーチハンドブック』、TANアウトリーチハンドブック制作委員会編、大阪村上楽器、2007年

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