「『音大生』が卒業後に『プロの演奏家』として羽ばたくためには」(第 4 回特別講座「若手音楽家のためのキャリア展開支援」)

 

9. 教育支援の実施例:エマージングコンサート

a. 概要

先ほど紹介しましたように、「エマージングコンサート」というシリーズもやっています。これは、愛知県立芸術大学と共催でやっているものです。大学は演奏技術を教える場なので、演奏に関しては先生方が教えます。宗次ホールが教えるのはプログラム作り、MC、舞台上での立ち振る舞い、ビジネス・マナーです。そして企業にはチケット100枚を買い取っていただき、これら三者が協力して若手演奏家を育成するという取り組みです。

これは正直、非常に大変です。現在3回、昨年からですと5回実施したことになります。

b. タイム・スケジュール

大体スケジュールがあり、最初に趣旨説明をしてグループにどういう曲ができるのか、確認してもらいます。それからタイトル、チラシの掲載内容、プログラムを各自作ってもらいます。それに対して、宗次ホールのスタッフの意見をフィードバックします。それらが決まったら、今度はシナリオですね。これも各自作成してもらいます。また同じように私たちが何度も意見を伝え、それをフィードバックし、修正して作り上げていく作業を繰り返します。シナリオが決定したら、今度は公開リハーサルです。一般モニターの方を30人くらい集めて、公開リハーサルをします。2回目は先生を呼んで、先生立ち合いでのリハーサルをした後、本番を迎えます。本番では、演奏会後にお客様との交流会をします。こうした非常に濃厚なことをやっています。

c. 演奏者目線からお客様目線へ

最初に演奏者と面談をします。これが一番大事と言いますか、要するに最初は演奏者目線とこちらのお客様目線とのバトルになります。例えばMCを一人でずっと話し続けるのは大変だから、4人で順番にやりたいという風に言ってきたんですね。順番ってどういうこと? それはあなたたちの勝手なことでしょ?と。それをやるとどういう風に見えるかというと、発表会ですよね。それはダメですよと。
考え方が自分たちの立場からの話ですよね。じゃあどうしたら良いかといったら、お客様により楽しんでもられるよう工夫しながら、4人で喋る場を成立させれば良いわけです。例えば進行役を一人立てて、イタリアの曲をやるのであれば、「Aさん、イタリアに行ったことあるんですよね?その時の思い出を話してもらえませんか?」、あるいはBさんに、「この曲にすごく思い入れがあるらしいですけれど、そこをちょっと話してもらえませんか?」というように振っていくわけです。こういう形であれば、考え方が違いますよね。お客様を楽しませるように順番に喋っていくというMCですよね。ですからこういう考え方をしてほしいと最初に言います。ここが学生や、音楽家の人と主催する立場の人間との根本的な違いかもしれません。いつも発想のズレはここにあるのかなと思います。

d. お客様から直接感想を聞くことの大切さ:公開リハーサル

公開リハーサルについて、少しお話しておきましょう。これは一般のお客様の前でやります。30人くらい呼んで、演奏が終わったあとに、直接演奏者にどんどん意見を言っていただく場を作っています。本当に演奏者にとっては厳しい時間です。
色んな意見が出されるのですが、この間の時はこういう風に言われました。「『皆さん』なんて言いましたけど、私達は幼稚園生じゃないんだよ。やっぱり皆様でしょ?」と、ポーンと言われました。これは、あんまり気にならないようにも思いますが、気になる人は気になるわけです。やはり「皆様」と言うべきだということを私とか先生じゃなくて、お客様から言われると、非常に効果があります。

またモニターとしていらした方々の側でも、見守ろうとする意識を持ってくださいます。公開リハーサルで厳しいコメントを伝えた後、本番を見て、この箇所がすごく良くなったねとおっしゃってくださる意見が結構多いです。すごい変わったよと。真剣に意見を寄せてくださったからこそ、みんなファンになって応援したくなるのですよね。こうしたことをエマージングコンサートではやっています。

e. 具体例の紹介

それでは具体的に、今年の6月にやった例を見ていきましょう。「第4回 雨上がりのときめきクラシック」というタイトルで、このようなチラシを作りました。

この時は、下の方にある桜桃歯科の歯医者さんが応援してくださいました。

f. タイトルとプログラムを決める際の注意点

最初にタイトルとプログラムを決めるのですが、その注意点だけでこんなにあります。

タイトルで興味を惹くかどうか。タイトルからコンサートがイメージできるかどうか。タイトルとプログラムの整合性があるかどうか。チケットを予約する時に恥ずかしくなるようなタイトルではないか。これ分かりますか? 例えばタイトルで「あなたが欲しい」だったとします。電話をして「『あなたが欲しい』のチケットをください」と言いにくくないですか? 僕は言いにくいなと思います。「恋」とか「愛」とか、こういう言葉も難しいなと感じます。

あるいは、面白いのは、宮本笑里さんっていますよね?あのチケットを買いに来る若い男の子たちは、あまり名前を言わないんです。いついつにあるヴァイオリニストのチケットくださいって。恥ずかしいのかなぁって、そんなお客様側の心理も感じます。

あと音大生の知っている曲と一般の人が知っている曲には大きなギャップがありますね。こういうところも考えて、プログラムを作ってもらうといいかなと思います。

例えば、これが最初に出た案です。

「雨の日のときめき~雨上がりの空に輝く星々~」というタイトルで、こうした曲が出されました。これに対してタイトルと内容の整合性を考えてみて、どう思いますか? タイトルが「雨」ですよね。でも曲を見てもらうと、雨じゃないですよね。月とか星とか。やはり、ここは考えた方がいいよという所です。

次の案を見てみましょう。こちらはどうでしょう。「恋するフォーチュン(幸せ)カルテット」というタイトルです。

どこに「恋」があるのでしょう。「恋するフォーチュン」というのはAKBですね。あのイメージからどう見えるかですよね。そのイメージが、曲とも全然合っていません。これは無いでしょうとなりました。タイトルによって、全然印象が違ってきます。

以前、面白かった例に、「あの素晴らしいクラシックをもう一度」というタイトルをつけたコンサートがありました。このとき、すごくチケットが売れました。なぜか分かりますか? 《あの素晴らしい愛をもう一度》のイメージなんですよね。そうすると、何かというと、「え?これパクリで?」という風に即、楽しく感じるのです。そして友達を誘う時に、「あの素晴らしいクラシックをもう一度」と言えば、「何それ、《あの素晴らしい愛をもう一度》じゃないの?」という感じで、楽しそうだなというように会話が弾んだことでしょう。こういうタイトルの決め方がとても良いと思います。

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10. その他の大切なこと

① お見送りをする

「クラシック音楽届け隊」の場合は、必ずお見送りをしています。なぜするかというと、お客様が喋りたいということもありますし、この時に、お客様が直接演奏を依頼するケースが多いからです。今度うちでやってくれないかというお話も伺える、出会いの場になるからです。ですからこれは絶対に必要だと思っています。

私たちにとっては、この「届け隊」の活動は指導の場でもあるのですが、演奏者が直接、主催者と出会う機会はなかなかないので、そういった出会いの機会作りの場でもあります。こういったところでどんどん依頼を受けて、次の演奏会に続けていってもらえれば良いと考えています。

② アウトリーチのすすめ

最後に、皆さんがどういう将来を描いているのか分かりませんが、やはりアウトリーチ活動をお勧めします。
学内での演奏や、コンクールも目指してほしい、プロオケも目指してほしいですけれども、やはりこういった外への演奏機会にも出かけて行って、お客様がどういうものを求めているかということを直接肌で感じてほしいですし、自分の演奏で相手が喜び、感動している姿を見て、私の演奏でこんなに喜んでくれるんだという喜びを間近で味わってほしいと思います。この経験は、早ければ早い方が良いでしょう。

こうしたことの会得は、リサイタルよりもアウトリーチの方がむしろ大きいです。ストレートに感じます。そういった活動をやればやるほど、数をこなせばこなすほど、ファンは増えます。

数をこなして、経験を重ねて、ファンを作っていくことが、結果的には将来皆さんがプロの演奏家になって、リサイタルをやることになったときに、そういえば以前、ここに来てくれた人だから、今度はホールに聴きに行こうよってなるのですね。

そういう活動をしていないと、結局、リサイタルを実施できても関係者しか来ないことになります。全然広がりがないのです。そうなってほしくはないと思います。

 

以上となります。本日はホールの立場からお話させていただきました。どこまで皆さんに伝わったか分かりませんが、今後少しでも役立ったら嬉しく思います。皆さん頑張ってください。

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