東京藝術大学 音楽創造・研究センター     

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「これから海外活動をめざす方へ」                   (第1回特別講座「若手音楽家のためのキャリア展開支援」)

「1.現在までのキャリア展開史」
「2.海外活動の様子」
「3.テーマの獲得」
「4.海外活動の意義」
「5.プロフェッションを継続するために心がけていること」


2.海外活動の様子

さてこれから先は、実際の海外活動の様子をご覧いただきましょう。

2.1. 2014年フランス・ロシア公演ツアー

これは、2014年の冬にフランスとロシアをまわるツアーをしたときの、フランス公演のチラシと写真です。右の写真はフランスの日本館という処です。お客さんがすごく少なく、10人くらいしかいませんでした。よく見ると後ろに絵があります。これは藤田嗣治の絵です。藤田嗣治の前でさらしを振れると思って、私は興奮しました。こういうものが普通にフランスにはあります。

左の写真は、フランスで複数回公演しました「ハーモニーオブジャパン」のチラシです。左側の三味線を弾いている女性は、藝大出身の山尾麻耶さんです。まずフランスに飛んで、フランスからロシアに入り、モスクワ音楽院が国際交流基金から受けた助成で、招聘公演を行いました。こういうパターンもあるわけです。皆さん国際交流基金の申請書類をお読みになればわかると思いますけれども、自分で申請する場合だけでなく、海外の方から皆さんを招聘する場合に助成していただけるという場合もあります。

2.2. 2015年リトアニア公演

次にいきましょう。2015年に在リトアニア日本大使館の招聘で、舞踊公演を実施しました。上の写真はリトアニアの市庁舎です。毎年ここで、リトアニアに駐在する各国外務省の方たちのバザーのようなものが開催されます。ここで踊ってほしいと依頼されました。お祭りという題で踊っているところなのですが、ここでなぜ踊っているのか、よく分からない。別に入場料金を取っているわけでもありません。日本で言えば、フリマで踊ってください、みたいな依頼です。

私も最初はどうしようかと思いました。でも実は、こうした場で海外の人たちが戦っているのですね。こういうバザーとか人々が集まる場で、海外の文化交流もしくは文化イベントの戦いのようなものをしているのです。つまり私たちはここで何ができるのかが問われているのです。とくに中国、韓国、日本、特にこの三国はかなり熾烈な戦いをしております。皆さんもこれからヨーロッパ、アメリカのいろんな各地で活動することになれば、そういう場面に出くわすことがあるでしょう。けして喧嘩をしているわけではありません。でもちょっと出ればわかるように、アジアではやはり至るところで盛んに拮抗しております。そして中国や韓国はそこにかなり力を入れております。

ですから皆さんがパフォーマー、芸術家として海外に行くと、各国大使館は日本からどんな人間が来たのか、どういうことをやるのかと綿密にリサーチをしにきます。そして皆さんが渡航してから、じゃあ自分たちはこういう人たちを呼ぼうと大規模に送り込んできます。ちなみに、私が1回目にリトアニアに行ったとき、そのあとで中国から同様のイベントに派遣されたのは京劇で、30人くらい来られました。中国は文化政策が非常に上手な国です。そしてお金が潤沢にありますから、私が1人で行って太刀打ちできるような国ではありません。

こういう大変なことはそうはありませんけれども、万一、こうした状況に置かれたとしても、そこで日本人1人の場として、どういう風に平然とした顔で交流をやっていけるのかが問われます。日本とは全然状況の異なる課題が突き付けられます。そこでは1人のアーティストとしてではなく、1人の日本人としてコメントを求められます。また政治や哲学、文化交流、文化間の問題、そういった質問がどんどん飛んできます。こうした質問にどういう風に答えたらいいのか、やはり日本にいるときに、ある程度、準備をしておく方がよいでしょう。日本の人たちは大抵、モゴモゴして答えられないといったことをよく耳にします。海外で色々やりたいと思う方は、ぜひこのような準備も必要だということを承知しておくとよいでしょう。

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2.3. 2016年リトアニア公演

次の写真もリトアニアのものです。

首都ヴィリニュスから2時間以上離れた、マリーヤンポレという市です。現地ではかなり地方と思われているところです。皆さんバルト三国といって何が思い浮かびますか? あまりご存知の方はいらっしゃらないのではないでしょうか。リトアニア・ラトビア・エストニアというバルト三国は、世界有数のIT国です。最近、マイナンバーという言葉をよく聞きますよね。そのマイナンバー制度の先進国もバルト三国です。そしてリトアニアは、世界有数のWIFI完備の国でもあります。日本よりも断然良い環境です。WIFIがどこでも繋がります。びっくりします。

この写真をなぜ出したかというと、後ろの映像をお見せしたかったからです。これはMacで、あらかじめ日本から音源も映像もパワーポイントで送って、現地で全部ダウウンロードする形で発表することができました。WIFI環境がしっかりしているので、簡単にアクセスできます。首都のヴィリニュスだけが完備されているのかと思いきやそうではなく、地方のこういう劇場までIT関連がしっかりとしています。

次です。これはメイクをしながら衣裳を着て踊るという一連の作業を、ワークショップという形でやらせていただいております。このパターンのイベントは、日本でもよくやりますね。

2.4. 2016年ハワイ公演

2016年11月に国際交流基金の支援を受け、「ハーモニーオブジャパン」のホノルル公演を、12月にはまたリトアニア日本国大使館の天皇誕生日祝賀レセプションというのをやらせていただきました。左はこのときのハワイに行ったプログラムです。右側の上の写真ですが、左側は日本総領事館で「月と酒の宴」というテーマで行った公演のときのものです。右側はハワイ大学の雅楽部とコラボレーションしたときの写真です。下の一連の写真は、リトアニア公演のときの写真です。

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2.5. 2017年リトアニア公演

上の画像は今年これから行く公演のプログラムです。5月12日からスタートして、第1グループ、第2グループと渡航します。リトアニアで行う日本伝統文化公演として初めて、文化庁への申請が通りました。リトアニアでのハーモニーオブジャパン、特別日本文化公演となります。

今回、文化庁への申請を初めて行いました。残念ながら文化庁では、個人での申請は昨年で終わってしまいました。今年から、法人団体しか受け付けないという基準になりました。その理由は、繰り返しの説明になりますが、やはり世界で活動する場合、特にヨーロッパですが、法人であるということがかなり信用の担保となり、責任ある日本人団体として、最初に問われる判断基準になるのだそうです。

私は昨年、アーツカウンシル東京というところに書類を出して、申請が通りました。演目は《一休と義政》という私の作った創作です。これをメインイベントとしてリトアニアで今回上演してきます。チラシをご覧いただくとお分かりの通り、こうした色具合も、うちの門弟がデザインを工夫しながら制作してくれています。皆さんが海外で活動する際、海外の方がチラシやポスターを作ってくれることが多いと思います。でも自分で作らなければいけないときもあることでしょう。そういうときに注意しなければいけないのが、フォントと色ですね。その国の方が好む色、デザイン、そしてフォントがあると思います。それを自分で情報として入手しないと、日本人がいつも見慣れているデザインになってしまいます。日本のデザインと外国のデザインの相違はかなりあると思います。観客動員や宣伝などで支障が出ないよう、こうしたことのリサーチも進めると良いでしょう。

2.6. 海外に出ていくということ:日本人アーティストの代表になるということ

あとこういう言い方は大言壮語ですが、アーティスティックな立場で私たちが関わったところから、自分を取り囲んでいる日本文化を理解し、自分が住んでいる日本を理解して、海外に出て行った方がいいです。海外に出たときに説明を求められることがよくあるためです。「あなたがやっているパフォームはどういう風に考えながらやっていますか?」という質問が飛んできます。そんな質問は日本では絶対にありえないですよね。でも海外ではこうした質問が来るのです。

それは不思議なところで飛んできます。例えば私の例ですと、ハワイでオバマ大統領の出身校、プナホウ高校というところで演じたときのことです。自分のパフォームが終わってから、日本語教室のボランティアをやってくれないかと言われました。高校3年生の日本語の「コンニチハ」とか日常会話の相手をすればいいのかなと思って、気軽にOKして参加しました。すると僕の前に座った男の子が質問がありますといって、「室町時代に始まったお茶の歴史と、今日本でやっている茶道の違いを教えてください」という質問をしました。かなりすごい質問が来たぞと驚きました。でもこれが世界なんですよね。脅かしじゃないですよ。たしかにプナホウ高校のレベルは高いですが、それだけではないでしょう。一概には言えませんけれども、その子が質問したということは、かなりのレベルで日本の文化について関心をもって、授業で扱っているのだと思います。展示されていた習字のレベルや、置いてある本を見ても、レベルの高さが窺えました。つまり日本人が考えているよりも、外国の方が日本に対して興味を持っている度合いは高いということです。このことを皆さんよく肝に銘じておいてください。どんな質問がくるのか予測はできませんけれども、やはり日本文化全般のことはある程度答えられるようになっておいた方が良いと思います。私の実感では、こうした質問は5年前はきませんでした。でも今は日本に興味があると言ってやってきた10人に1人は、このぐらいのレベルの質問がくる気がしています。

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