2021年度【キャリア形成に関する卒業生・若手音楽家へのインタビュー】作曲家・篠田大介 氏

 東京藝術大学音楽学部音楽総合研究センター《シンクタンク機能社会・発信室》は、『2021年度音楽学部若手作曲家・演奏家・研究者支援事業』採択事業として、様々な専攻の若手卒業生をお招きし、【キャリア形成に関する卒業生・若手音楽家へのインタビュー】を実施いたしました。
 
 当室教育研究助手の屋野晴香がインタビュアーとなり、音楽家同士だからこそ分かり合える活動のあれこれや、アーティストとしてのこれまでの道のり、在学生へのメッセージをうかがうシリーズ企画です。

 卒業後の道のりは、同じ専攻であっても十人十色。音楽学部全体を見渡せば、アーティスト活動の軌跡は千差万別です。在学生の皆さんには先輩のお話を参考のひとつとし、自分自身の進路を見つけるためのヒントにして頂きたいと思います。

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今回のゲストは、作曲家の篠田大介(しのだ・だいすけ)さんです。篠田さんは日本アカデミー賞優秀音楽賞の獲得など、テレビドラマや映画音楽の世界でご活躍される作曲家です。

この記事は、篠田さんがインタビューの準備としてご自分の言葉で綴ってくださった原稿を頂戴し、会話をもとに再構成しました。

動画版では作曲家の篠田大介さん・山中千佳子さんご夫妻とのリモートインタビューの様子とともに、より深いお話しが伺えます!

《ゲスト:作曲家・篠田大介》

東京藝術大学音楽学部作曲科卒業。同大学院修了。CM音楽の制作を軸にプロとしてのキャリアをスタート。以降、映画、テレビ、アニメーション、CM、ゲーム等の音楽の作曲・編曲の他、コンサートやレコーディングのためのオーケストラアレンジも多く手がける。2020年、第43回日本アカデミー賞において、映画「蜜蜂と遠雷」劇中音楽で「優秀音楽賞」受賞。 2019年に韓国で公開されたアニメーション映画「さよなら、ティラノ【監督:静野孔文、音楽:坂本龍一】」のサウンドトラックではadditional arrangerとして坂本龍一氏の楽曲を多数アレンジし、同氏より非常に高い評価を受ける。また自身の邦楽器作品は、NHK­FMの伝統音楽番組「邦楽百番」で放送されるなど、現代邦楽界の新たな境地を切り拓く作曲家としても期待されている。

《聞き手・企画・構成:屋野晴香》

ウィーン国立音楽大学器楽科ピアノ室内楽専攻を学部・大学院ともに最優秀で修了。東京藝術大学音楽学部では楽理科に学ぶ。2020年度より同大学音楽学部 音楽総合研究センター シンクタンク機能社会発信室にて教育研究助手を務める。

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現在の主なお仕事内容をお教えいただけますか?

いわゆる劇伴というジャンルの作曲が主な仕事で、映画、TVアニメ、ドラマ、ゲーム、の音楽を作る仕事が殆どです。
締め切りに間に合うように、毎日毎日たくさん曲を作り進めます。例えばアニメでいうと1クール用に40曲以上、もっと大きなプロジェクトになると、1つの作品に対して80曲を超える曲数が必要になりますので、ひたすらこなします。

もの凄い作曲量をこなされるのですね!

仕事が重なると締め切りがキツイですが、長い時間をかけて作っていた作品が世に出て、世の人に楽しんでもらえることは、嬉しいポイントですね。

作曲とはどう出会ったのでしょうか?

母親が藝大の三味線科を出ていたことから、音楽に進ませたいというのはあったらしいです。幼少の頃のピアノ教室、小学校の金管バンド、中学校の吹奏楽部と作曲行為の開始、高校でのバンド活動(ギター)を経て、藝大の作曲科へ進みました。

幼少期からピアノ、金管、ギター、さらにはお母様の三味線など様々な楽器や異なるジャンルの音楽に触れられる環境があったのですね。

一般高校出身だったこともありますが、藝大に入ると入学の時点でとてもレベルの高い演奏家がたくさん周りにいて、交流できたことが大きな財産ですね。

卒業後、劇伴の世界で今のポジションにくるまでの道のりや、ターニングポイントとなったエピソードなどをお伺いさせてください。

まずは、CM音楽の仕事を始めました。
最初は会社勤めみたいな形で始まりましたが、半年もしないうちに会社は辞めてフリーランスになりました。最初の頃は、自分の足を使って様々なプロダクションに作品を持ち込み、営業しました。

それで仕事を頂き、音楽を作ってそのお金で生活を出来るようになったという意味では、1つのターニングポイントです。

2つ目は、坂本龍一さんとの出会い。
3つ目は、日本アカデミー賞を頂いたこと。(映画『蜜蜂と遠雷』)

その後は、その流れで色々な方との出会いがあり、いろんなチャンスを頂いて、CM以外の仕事、今メインにしている劇伴の仕事などをするようになり、今に至ります。

先程CM音楽の制作をされていた頃は半年で会社を辞めてフリーランスになったと仰っていましたが、今は映画のお仕事など規模も大きくなって、事務所に所属されて活動されていらっしゃるのでしょうか?

これまでは半分フリー、半分事務所、みたいな感じでしたが、だんだん殆ど事務所、になってきました。僕の場合、仕事の規模が大きくなればなるほど一人でやっていくのは大変なので、所属した方が良いなと感じます。

フリーランスも、事務所に所属するかたちも、両方ご経験があるのですね。
藝大生の多くが、オーケストラや合唱団に所属しながら個人活動も行うという道を歩むことになると思いますが、篠田さんご自身のご経験もふまえ、音楽活動を長く続けていく秘訣や、経済面に関しての考え方もお伺いできますか?

全然偉そうなことを言える訳ではないけれど、『音楽をするということを、きちんと仕事にすると考えること』かなと思います。

どうしても音楽の仕事は不安定なところがあるけれど、きちんと自立をしていくんだという姿勢で臨むことが、良い仕事をすることに繋がると僕は思います。

趣味はお金を払って行うものだけど、仕事はお金を頂いて満足させることと考えて、きちんとお金を頂く行為と考える。そして常に自分をアップデートしていくという意識を持っていないと、取り残される。

経済面に関しては、音楽の仕事は水物で、特に駆け出しの頃は報酬に関してもうやむやにされたり、はっきりされないこともあるかと思いますが、自分の仕事に対して満足のいく対価を求めていくという姿勢は若い頃から必要だと思います。

もちろん、相手との関係性をきちんと考えて、関係を築くつもりでお話しをしますし、きちんと相手の求めていることに応えられているという技量と自信も必要になります。

学生のうちは特に「良い作品を創りたい」「良い演奏を突き詰めたい」ということに盲目的なほどに没頭しがちです。それも必要な時間ではありますが、「良いものを創った、その先のビジョン」までは考えが及ばなかったり、言語化できないことも多いと思うのです。

先程仰った『音楽をするということを、きちんと仕事にすると考えること』は、もちろん一人一人が価値観も選択肢も取り組む課題も違ってくるわけですが、社会の中で音楽家としてどう生きていくのか、音楽を通して社会にどう貢献できるのかという大きな課題にも繋がるテーマですね。

音楽を聴けば腹がふくれる訳でもなく、困っている人を助けてあげられる訳ではない。でも例えば僕だったら携わった映画とかアニメとかドラマを観た人が、日々の生活の中で少しでも心の充足感になれたら良いなと思いますし、そういった形で社会貢献できればと思っています。

このインタビューの前に篠田さんのウェブサイト経由で、携わられた作品(外部サイト)を拝見していて、私自身が使用している基礎化粧品のCMの音楽も篠田さんの作品だったことを知りました!好きでよく口ずさんでいたんです。おばあちゃんと青年がバイクに乗って菜の花畑を走る宅配便のCMも、映像と音楽のみでストーリー展開されるショートムービーのようでとても好きでした。

映画のような大作だけでなく、これらのテレビCMのようにまさに「日々の生活の中でちょっとした楽しみ」として溶け込んでいる作品も手がけられているのは、とても素敵なお仕事ですね。

劇伴の作曲家として、篠田さんご自身のこれからの目標や夢はありますか?

将来の夢としては、NHK大河ドラマの音楽でもやれたらいいなと思っています。

最後になりましたが、学生へのメッセージをお願いいたします。

『藝大』という環境はひとつの価値観に過ぎないので、出来るだけ早いうちに色々な価値観に触れ、自分がやりたいことを見つけると良いと思います。

人によってどうしていきたいかというのは様々だと思いますが、僕自身でいうと、「音楽は身を立てるためにやっていること」と思っていました。
最初は音楽で食えるかどうか不安ばかりでしたが、今は東京に家も買えました!(笑)

学生の皆さんも、自分がやりたいことに向かって努力して、うまくいってる人もそうでない人もいるかもしれませんが、続けることによって良いことは必ずあると思うので是非頑張っていただきたいです。